食後の眠気と午後の失速は血糖値スパイクのサイン?

午後になると、眠気に襲われて集中が続かない。
昼食のあとは、甘いものに手が伸びる。
お酒を飲んだわけでもないのに、頭がぼんやりして体が重い。
それでも健康診断では、「数値はおおむね正常範囲」と言われる。
こうした不調を、年齢や寝不足のせいにして、やり過ごしてきた方も多いのではないでしょうか。
原因はもちろん、ひとつではありません。それでも精密栄養学の視点で並べ直してみると、見落とされやすい臓器がひとつ浮かび上がってきます。体内で最大の内臓、肝臓です。
肝臓は「お酒を処理する臓器」と思われがちですが、その仕事はもっと幅広く、なかでも見過ごせないのが「血糖の調整」です。今回は、午後の眠気と肝臓の、この隠れた関係を読み解いていきます。
沈黙の臓器は、血糖でサインを出す
肝臓は、食べたものを体が使える形に組み替え、エネルギーを蓄え、ホルモンや薬を分解します。休みなく動き続ける、化学工場のような臓器です。
その大きな特徴が、肝臓そのものには、痛みを感じる神経がほとんどないことです。「沈黙の臓器」と呼ばれるのはそのためで、かなり無理がかかっても、肝臓はなかなか痛みを訴えません。
代わりに肝臓のサインは、食後の眠気、午後の失速、気分の波、お酒に弱くなった、といった形で現れます。どれも一見、肝臓とは無関係に見える症状ばかりです。検査の数値はまだ正常でも、肝臓は日々の仕事量に対して、余力ぎりぎりで動いている。精密栄養学では、こうした視点を大切にします。
食後の眠気は、「血糖のダム」がこぼし始めた合図
腸で吸収された栄養は、まず門脈(もんみゃく=腸から肝臓へ向かう血管)を通って肝臓へ届き、全身へ回る前に、ここで仕分けされます。肝臓は、代謝の流れのいちばん川上に立つ「最初の関所」なのです。
その関所の大きな仕事のひとつが、血糖の調整です。食後、血糖が上がりすぎないように、肝臓は余った糖をグリコーゲン(糖を一時的にためておく形)に変えてため込みます。そして空腹になると、貯蓄していた糖を放出して血糖を支えます。この「貯めて、放出する」というダムのような働きを大きく担えるのは、肝臓だけなのです。
そしてこのダムの調整が追いつかなくなると、食後に血糖が急に上がり、その反動で急に下がる「乱高下」が起こります。食後にどっと眠くなる、午後に集中が切れる、甘いものがやめられない。その波の裏側で、肝臓の血糖調整が滞っていることがあります。
余った糖が脂肪に変わり、ダムの効きが落ちる
グリコーゲンとして貯められる量には、限りがあります。溢れた糖は中性脂肪に作り替えられ、その一部は肝臓自身に溜まっていきます。これが脂肪肝で、お酒を飲まない人にも起こります(非アルコール性=お酒が原因ではない脂肪肝)。
脂肪肝の傾向が出てくると、肝臓はインスリン(血糖を下げるホルモン)の指示に応えにくくなると考えられています。同じだけ血糖を下げるのに、より多くのインスリンが必要になり、食後の血糖スパイク(急上昇)も起きやすくなる。余った糖がダムの効きを鈍らせ、効きの鈍ったダムが、また糖をあふれさせる。この悪循環が、午後の不調の裏で静かに回っていることがあります。
肝機能が「正常」でも、ダムの余力までは見えない
健康診断などでおなじみの血液検査項目であるASTやALTは、肝細胞の中にある酵素です。細胞が傷つくと血液中に漏れ出すため、高い値は「肝細胞が傷ついているかもしれない」というサインとして読まれます。ただしASTは、筋肉や心臓など肝臓以外の原因でも上がるので、この数値だけで肝臓の状態は決められません。
大切なのは、「基準値に収まっているかどうか」だけで判断を終えないことです。AST・ALTが見ているのは「肝細胞が傷ついたか」であって、ダムとしての処理能力にどれだけ余力があるかまでは、教えてくれません。血糖の波が気になるなら、空腹時血糖やHbA1c(過去1-2ヶ月の血糖の平均を映す値)、中性脂肪も併せて見ると、肝臓の負担の状態がより具体的に見えてきます。数値が正常でも不調が続く時は、自己判断せず、医療機関への相談をお勧めします。
今日から始める3つのアクション
① 朝を、糖質だけで始めない
糖質に偏った朝食は、ひと晩の空腹で空っぽになった肝臓に、いきなり大量の糖を流し込みます。卵・魚・大豆製品などのタンパク質を朝にとっておくと、血糖の立ち上がりがゆるやかになり、ダムへの負担を抑えられます。
② 「液体の糖」を見直す
ジュースや加糖飲料、果糖の多い甘いものは、液体だと糖が一気に吸収され、肝臓で脂肪に変わりやすいと言われています。お菓子を我慢するより先に、まず飲み物を水やお茶に変える。これにより、糖の総量を減らすことができます。
③ 食後に、少しだけ体を動かす
食後すぐに座り込むと、上がった血糖が行き場を失いがちです。食器を片づける、数分歩く。そのくらいでもかまいません。筋肉が糖を使ってくれる分、食後のスパイクと眠気がやわらぐはずです。
やってはいけない「思い込み」の落とし穴
「数値が正常だから大丈夫」とは限らない
検査の数値が動きはじめるのは、肝臓がかなりの負荷を抱えてからです。正常の範囲に収まっていても、ダムが余力ぎりぎりで踏ん張っていることもあります。食後の眠気やだるさを、数値の安心だけで見過ごさないようにしたいところです。とはいえ、自分で「脂肪肝だ」と決めつける必要はありません。医療機関で適切な検査を怠らないようにしましょう。
「下戸だから脂肪肝とは無縁」とは限らない
肝臓に脂肪をためる原因は、アルコールだけではありません。糖質や果糖のとりすぎは、お酒を飲まない人でも脂肪肝につながることが分かっています。だからこそ、お酒を控えている人ほど見直したいのが、食事の糖の量です。毎日の一杯のジュース、ひとつの菓子パンが、ダムの余力を少しずつ削っていきます。
まとめ:あふれる前に、注ぐ量を減らす
夕方の体の重さ、食後の眠気、午後に切れる集中力。これらは怠けでも、年齢のせいでもなく、川上にある「血糖のダム」が、痛みも訴えないまま、静かにあふれかけているサインなのかもしれません。
ダムは、満杯になってから教えてくれるわけではありません。限界のサインを待つより先に、今日、注ぎ込む糖を少し減らしておく。朝のタンパク質、液体の糖の見直し、食後のひと歩き。そんな小さな取り組みから始めてみるのも良いでしょう。