「ストレスホルモン」コルチゾールの本当の役割とは?

「ストレスホルモン」。コルチゾールには、いつからかそんな呼び名がついています。
呼び名がこれだけ広まると、少ないほどいいもの、できれば出したくないもの、という印象になっていきます。ストレスさえ減らせばこのホルモンも下がって、体は楽になる。そんなふうに語られることも少なくありません。
ところが、このホルモンがゼロになったら、私たちは朝、布団から出ることすらできません。
今回は、コルチゾールが本当は何をしているのか。そして、その数字をどう眺めるといいのかを、精密栄養学の視点で整理していきます。
「ストレスホルモン」という呼び名が、隠しているもの
コルチゾールは、腎臓の上にちょこんとのった副腎という小さな臓器で、コレステロールを材料に作られます。
たしかに、強いストレスがかかった時に増えるホルモンです。でも、それは仕事のごく一部でしかありません。
ひとつめは、血糖を保つこと。夜のあいだ、私たちは何も食べていません。それでも朝、低血糖で倒れずにいられるのは、コルチゾールが肝臓に働きかけて、糖を作り直しているからです。
ふたつめは、炎症にブレーキをかけること。体の中で起きている炎症が広がりすぎないよう、静かに抑えています。
みっつめは、朝、体を立ち上げること。目を覚まし、頭を働かせ、一日ぶんの活動へ向けてスイッチを入れる。
つまり、敵ではありません。困るのは、出っぱなしになることと、リズムが崩れることのほうです。
同じ人でも、朝と夜で数字が変わる
コルチゾールを語るうえで、いちばん大事なのが、この時間の話です。
このホルモンは、一日の中で大きく上下します。朝がもっとも高く、そこから夜に向かって、ゆるやかに下がっていく。夜にしっかり下がってくれるから、私たちは眠りに入っていけます。
ですから、「コルチゾールが高い」「低い」という話は、いつ測ったのかとセットでなければ意味を持ちません。朝の高さと、夜の高さは、まったく別の話です。
検査の結果を見るときは、ご自分の数値とあわせて、採血した時刻もメモしておいてください。同じ13という数字でも、午前10時の13と、夕方の13では、意味がまるで違ってきます。
一度の採血でわかるのは、その瞬間の一点だけ。一日の波の形までは見えません。ここは、覚えておいてください。
健診の「基準値」と、精密栄養学の「理想値」
もうひとつ、物差しの話をさせてください。
健康診断で使われる基準値は、健康な人の大多数が収まる幅として作られています。病気を見つけるための物差しですから、この中にいれば「異常なし」です。
精密栄養学は、そこに理想値という別の目盛りを重ねます。病気でない状態ではなく、その人がいちばん調子よく動けている時に示す値。ですから、範囲はぐっと狭くなります。
コルチゾールでいえば、4〜6μg/dLがひとつの目安とされています。
健診では何も言われなかったのに、この目盛りでは届いていない。あるいは、ずいぶん上のほうにいる。そういうことは、めずらしくありません。
ただ、届いていないことを減点として受け取らないでください。理想値は、進む方向を示すためのものです。
高い状態が続くと、体の中で起きること
コルチゾールが高いまま下がりにくくなると、いくつかのことが同時に進みます。
血糖とインスリン コルチゾールは血糖を上げ続けますから、それを下げようとインスリンも高くなります。この組み合わせは、内臓脂肪をためこむ方向に働きます。「食事は変えていないのに、お腹まわりだけ落ちない」という時、背景にこれがいることがあります。
自律神経 交感神経に傾いたままになり、HRV(心拍変動)が上がりにくくなります。休んでいるはずなのに、休めた感じがしない。そんな状態です。
ホルモンの材料 精密栄養学には、コルチゾールスティール(コルチゾールの横取り)という考え方があります。コルチゾールの材料であるコレステロールは、女性ホルモンや男性ホルモンの材料でもあります。ストレスが続いて体が生命維持を優先すると、材料はコルチゾールのほうへ回され、性ホルモンにまわる分が細くなる、という見方です。
睡眠 夜になっても下がりきらないと、寝つきが悪くなったり、夜中に目が覚めたりします。そして眠りが浅いと、翌朝また整いにくい。ここは、輪になりやすいところです。
リズムを支える、3つの習慣
数字を直接動かそうとするより、リズムを支えるほうが現実的です。
① 血糖を、落としすぎない
急な低血糖は、体にとっては非常事態です。血糖を戻すために、コルチゾールが緊急で呼び出されます。長すぎる空腹を避け、食事は野菜やたんぱく質から。忙しい日ほど、抜かずに少しでも口に入れておく。それだけで、無駄な呼び出しが減ります。
② 材料を切らさない
副腎は、体の中でもとりわけビタミンCを多く抱えている臓器だと言われます。コルチゾールを作る時にも使われます。ピーマン、キウイ、柑橘類などを、こまめに。あわせてビタミンB群(豚肉、卵、大豆)とマグネシウム(海藻、ナッツ、葉物野菜)も、負荷の続く時期には意識したい栄養です。
③ 夜に向けて、下げていく
午後のカフェインは控えめに。アルコールは寝つきをよくするように見えて、夜間の血糖とホルモンのリズムを乱します。寝る前は光を落とし、ゆっくり吐く呼吸を数分でも。夜にきちんと下がることが、翌朝きちんと上がることにつながります。
コルチゾールをめぐる、2つの思い込み
思い込み1:低ければ低いほどいい
これは、逆です。
負荷の続いた結果、反応そのものが鈍っていくことがあります。朝どうしても起きられない、夕方にガス欠になる。そんな出方をします。
そして、コルチゾールが低く出る背景には、医療機関で調べるべき病気が隠れていることもあります。数字が下に外れていた時は、上に外れている時よりも、むしろ急いでください。自己判断せず、検査を出してくれた先生にご相談を。
思い込み2:一度測れば、自分のストレスがわかる
一点の数字は、その時刻の状態を表しているだけです。前の晩の睡眠、当日の緊張、採血の時間帯。どれでも動きます。
数字は、体の状態を知る手がかりのひとつ。それ以上でも、それ以下でもありません。
まとめ:量ではなく、時間で読む
コルチゾールは、私たちを朝起こし、血糖を保ち、炎症を抑えてくれるホルモンです。減らせばいいというものではありません。
大事なのは、朝きちんと上がり、夜きちんと下がること。その波が保たれているかどうかです。
そして、その波を支えているのは、特別なサプリメントではなく、血糖の安定と、材料になる栄養と、夜の過ごし方です。
数字に一喜一憂するかわりに、今日の食事と、今夜の眠りを整える。遠回りに見えて、それがいちばん確かな道だと思います。
数字は、あなたを評価するものではありません。今日の食事と、今夜の眠り。そこから整えていくことが、遠回りに見えていちばん確かな道だと思います。

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※ この記事は、精密栄養学の考え方にもとづく一般的な情報提供であり、特定の病気を診断したり、あなたの状態や体質を断定したりするものではありません。本文でご紹介した理想値は精密栄養学の目安であり、医療機関で用いられる基準値とは異なります。検査値の解釈は専門的で、自己判断は禁物です。効果や体の反応には個人差があります。強い疲労感が続く、朝どうしても起きられない、極端な血圧や血糖の低下がある、といった場合には、ホルモンに関わる病気が隠れていることもあります。自己判断なさらず、医師などの専門家にご相談ください。