LABO一覧へ戻る

脂肪から作られる、もうひとつのエネルギー「ケトン体」の話

大事な場面で、なんだか頭がうまく働かない。

夕方になると、集中が切れてしまう。

そんな時、私たちはつい「気合いが足りないだけだ」と考えてしまいがちです。

でも、その背景には、脳に届くエネルギーの状態が関わっていることがあります。

私たちの体は、普段は糖(ブドウ糖)をおもなエネルギー源にして動いています。ところが、糖が足りなくなった時にだけ働きはじめる、もうひとつのエネルギーが、体には備わっています。

それが、脂肪から作られる「ケトン体」です。

今回は、このケトン体とは何か、どうやって作られるのか。そして精密栄養学の視点から見た分泌の個人差や注意点まで、やさ整理していきます。

ケトン体とは? 糖が足りないときの「第2の燃料」

ケトン体とは、糖質が不足した時に、脂肪が分解されて作られるエネルギー源の総称です。いわば、体にもともと備わっている「予備のエンジン」のようなものだと考えてください。

ケトン体には、大きく3つの種類があります。血液中にいちばん多く、脳や筋肉で効率よく使われる主役の「βヒドロキシ酪酸」。最初に作られる「アセト酢酸」。そして、エネルギーとしては使われず、呼気や尿として体の外へ出ていく「アセトン」です。糖質を長く控えていると、息がほんのり甘く匂うことがありますが、これはアセトンが増えているサインとも言われます。

体は、どうやってケトン体を作るのか

普段、体は食事からとった糖を、細胞のなかにある「ミトコンドリア」というエネルギー工場で燃やして動いています。

ところが、糖質を控えたり、断食をしたりして糖が足りなくなると、体はガソリン車から電気自動車に切り替えるように、脂肪を使うルートへと徐々にシフトしていきます。脂肪細胞に蓄えられた中性脂肪が脂肪酸に分解され、血液に乗って肝臓へ運ばれ、そこでケトン体が作られます。

おもしろいのは、ケトン体を作る肝臓自身は、それをほとんど使わないこと。作られたケトン体は血液に乗って、脳や筋肉など、それを必要としている場所へと送り出されていきます。

なぜ「頭が冴える」と言われるのか

脳は、体のなかでもとりわけエネルギーを多く使う臓器で、全身のおよそ2割ものエネルギーを消費するとも言われます。

その脳には「血液脳関門(BBB)」というバリアがあり、脂肪酸はそのままでは通れません。ところが、小さく作り替えられたケトン体なら、このバリアを通り抜けて、脳のエネルギーになることができます。ケトン体は脳にとって比較的クリーンで効率のよい燃料とも言われ、うまく回っている時には、頭のモヤモヤ(ブレインフォグ)が晴れるような感覚を語る人もいます。

ただし、これは体質やその時の状態によって、感じ方に個人差があります。誰にでも同じように起こるものではない、という点は、あらかじめお伝えしておきたいところです。

出やすさには「個人差」がある ― 精密栄養学の視点

ここが、精密栄養学ならではの視点です。「糖質を減らせば、誰でもすぐにケトン体が回りはじめる」わけではありません。

たとえば、脂肪をエネルギーに変える働きや、脂肪酸をミトコンドリアへ運ぶ仕組みには、生まれ持った個人差があると考えられています。この働きがゆっくりめの方は、脂肪をうまくエネルギーに変えにくく、無理に糖質だけを減らすと、かえって肝臓に負担がかかってしまうこともあります。

また、ケトン体はミトコンドリアで作られるため、そもそもミトコンドリアが疲れ気味の方は、うまく作れないこともあります。腸内環境が関わっている可能性を指摘する声もあります。

さらに、極端な糖質制限を長く続けると、中性脂肪がとても低いのにLDLコレステロールだけが高くなる、という特有の変化があらわれる方もいます。これは体質による反応のひとつで、良い・悪いと単純に決められるものではありませんが、「みんなに同じ方法が合うわけではない」ことを示す、ひとつの例です。

だからこそ、自分の体質を知り、必要なら専門家と一緒に進めていくことが大切になります。脂肪をエネルギーに変えるのが少し苦手な方には、食品である「MCTオイル(中鎖脂肪酸)」を少量から試してみる、といった工夫が合う方もいます。ただし、合う・合わないには個人差があり、体質やお薬によっては注意が必要なこともあります。

安全に付き合うために、知っておきたいこと

ケトン体の話をするうえで、いちばん大切なのが安全性です。

まず、食事や断食でケトン体が自然に上がっている状態(生理的なケトーシス)と、糖尿病などでインスリンが正しく働かず、ケトン体が異常に増えて血液が酸性に傾いてしまう危険な状態(ケトアシドーシス)は、まったくの別物です。後者は、強い吐き気や嘔吐、激しい疲労、頭痛などを伴う、緊急性の高い状態です。

また、糖質を減らしはじめた初期には、体が慣れるまでの間、だるさや頭痛、体が重く感じるような症状(俗に「ケトフルー」と呼ばれます)が出ることもあります。水分やミネラル(塩分・マグネシウムなど)の不足も関わると考えられています。

そして、次のような方は特に注意が必要です。1型糖尿病などインスリンの働きに問題がある方、甲状腺の機能に不安のある方、妊娠・授乳中の方。こうした方は、自己判断で行わず、必ず医師などの専門家の指導のもとで進めてください。

今日からできる、無理のない一歩

いきなり厳しい糖質制限や断食に飛び込む必要はありません。むしろ、それはおすすめしません。

まずは「ゆるやかに」
主食を少し減らす、砂糖の入った飲み物を控える、といった小さな一歩から。朝の目覚めや日中の疲れ方を観察しながら、少しずつ進めていきましょう。

脂の「質」を大切に
とる脂は、魚のあぶら(オメガ3)やオリーブオイル、MCTオイルなど、質のよいものを意識して。

土台を忘れずに
水分、ミネラル(塩分・マグネシウム)、食物繊維はしっかりと。ここが抜けると、かえって不調につながりやすくなります。

体調が最優先
少しでも強い不調を感じたら、無理をせず立ち止まる。持病やお薬のある方は、始める前に必ず専門家に相談を。

まとめ:ケトン体は、体質を考慮しながら

ケトン体は、糖に頼りきらずに体と脳を動かす、もうひとつのエネルギーです。うまく回ると心地よさを感じる方もいますが、その出やすさや向き不向きには、はっきりとした個人差があります。

大切なのは、流行りの方法に飛びつくことではなく、自分の体質を知り、無理のない範囲で、安全に試していくこと。数字や方法にとらわれすぎず、日々の体調と体感という何よりのバロメーターを、いちばんの目安にしてくださいね。

このメールマガジンでは、精密栄養学や遺伝子に加え、東洋医学やアーユルヴェーダ、最新のテクノロジーを用いたヘルスケアの観点から、血液データの読み解き方、食事やサプリの実験記録、そしてオーストラリアでの暮らしの中で見つけた健康と快適なライフスタイルのヒントを、お届けします。

メールマガジンに登録して、無料ガイド『はじめての精密栄養学』を受け取る

【ご登録特典】無料ガイド『はじめての精密栄養学』をプレゼント中!

自分の体調のつまずきを自分でチェックできる「つまずきマップ」、血液データで見ておきたい5つの項目、そして僕自身の一日の過ごし方まで。あなたの体を読み解くためのヒントをまとめました。


※ この記事は、精密栄養学の考え方にもとづく一般的な情報提供であり、特定の病気を診断・治療したり、あなたの体質を断定したりするものではありません。効果や体の反応には個人差があります。糖質制限や断食は、持病やお薬のある方、妊娠・授乳中の方などには合わないことがあり、健康を損なうおそれもあります。実践を検討される際は、自己判断なさらず、必ず医師などの専門家にご相談ください。強い不調が続くときは、早めに医療機関を受診してください。