プラクリティとヴィクリティ|本来の自分と、いまの自分の距離

みんなと同じように食べているのに、太りがちな人もいれば、スリムな体型を保てる人がいます。
夏になると調子を崩しがちな人がいる一方で、夏がいちばん調子がいいという人もいます。
この違いは、どこから来るのでしょうか。
アーユルヴェーダには、その問いに向き合うための視点があります。
それは、プラクリティとヴィクリティと呼ばれます。
生まれ持った設計と、いまの状態
プラクリティとは、生まれ持った体質のことです。
アーユルヴェーダでは、これは受胎の時に決まり、生涯を通じて基本的に変わらないと考えます。ヴァータ、ピッタ、カパという三つのエネルギーの配合が人によって違い、その組み合わせが七つの体質として整理されています。
ヴァータ、ピッタ、カパの単独型が三つ。
ヴァータ・ピッタ、ピッタ・カパ、ヴァータ・カパの複合型が三つ。
そして、三つが均衡したトリドーシャ型がひとつ。
合わせて七つです。
最後のトリドーシャ型は、きわめて稀だとされています。
一方のヴィクリティは、いまの状態を指します。
季節、食事、仕事、人間関係、睡眠。
そうしたものの影響を受けて、日々動いています。
そして、この枠組みが面白いのは、ここからです。
ふたつの間に開いた距離こそが、不調のもとになる。
アーユルヴェーダは、そう考えます。
裏を返せば、このふたつを近づけていくことが、そのまま健やかさに向かう道になる、ということです。
「異常なし」と言われたのに、という感覚
この考え方を知って、僕は少し楽になりました。
あれがいいこれが正しいという情報に溢れる現代で、一般的な正解を追い求める必要はなく、本来の自分にもどることを目指せばいいのだというブレない軸ができたからです。
例えば、僕のようにヴァータ体質で風の要素が強い人が、カパ体質の人のようにいつもどっしりと安定感あふれる、無風の人になろうとする必要はないのです。
また、ピッタ体質で火の要素が強い人が、その熱を消してしまう必要もありません。
戻るべき先は、あくまで自分の生まれ持った本来の姿なのです。
これは、健診で「異常なし」と言われたのに、なんとなく調子が上がらない。
この疑問とも重なります。
血液検査のデータひとつにしても、一般的な基準値の中に入っているかどうか(=病気と診断されるかどうか)と、その人がいま理想的な状態にあるかどうかは、まったく別の視点だからです。
差が開くと、体はどちらに傾くか
三つのうち、どれが過剰に傾いているかで、出てくるサインは変わります。
ヴァータが高まっている時。
神経が過敏になる。眠りが浅い。便秘がち。関節の不調。落ち着かない。冷えと乾燥。
ピッタが高まっている時。
胃の不快感。肌荒れや湿疹。怒りっぽさ。焦り。ほてり。
カパが高まっている時。
体重が増える。朝、体が重い。気分が沈む。むくみ。アレルギー体質の傾向。
興味深いのは、もともとその体質ではない人にも、これらが起こるということです。
ヴァータ体質でない方でも、何らかの理由でヴァータが高まれば、ヴァータらしい症状が現れる。
アーユルヴェーダでは、そう捉えています。
ですから、いまあなたの体と心に出ているサインは、あなたの本質ではないかもしれません。
いま、どちらに傾いているかを教えてくれる合図です。
とはいえ、あなたが何かしらの症状を抱えている場合、まったく別の原因が隠れていることもあります。
長く続く不調は、必ずしも体質の話だからと割り切らず、必要な場合は医療機関で診ていただいてください。
何が、差を開かせるのか
伝統的には、時間帯、季節、生活習慣、住む土地の気候などが、ドーシャを動かす要因として挙げられてきました。
一日の中では、朝の6時ごろからカパが増え、10時ごろからピッタが強まり、夕方からヴァータが優勢になるとされます。
季節では、春にカパが乱れやすく、夏から雨の季節にかけてヴァータが、秋にピッタが乱れやすい。
これはインドの気候を土台にした考え方ですし、僕が暮らす南半球では、時期が半年ずれます。
それでも、自然が動けば体も動く、という骨格の部分は、どこに住んでいても変わりません。
ところが現代の暮らしは、この自然のリズムから離れがちです。
夜更かし。
夜勤。
一年中同じ室温の部屋。
季節を感じにくくなった食卓。
引っ越しや出張による環境の変化。
本来なら穏やかに揺れるはずのドーシャが、大きく振れたまま戻らなくなる。
そうして、慢性的なヴィクリティの状態が居座ります。
そして現代において、最大の要因とされるのがストレスです。
アーユルヴェーダの見方では、精神的・肉体的なストレスがかかると、まずヴァータとピッタが乱れやすいとされます。
プレッシャーの多い仕事や人間関係で神経が張りつめれば、ヴァータが高まり、不安、不眠、動悸、呼吸の浅さといった形で表れる。
僕自身、長期的に仕事や不慣れな頃の海外生活でストレスを抱え続け、今思えばヴァータが過剰になってしまい、不安感がそれまでにないほど高まってしまった経験があります。
iPhoneのヘルスケアデータを見ると、交感神経や安静時心拍数が年々高まっているのがわかり、肩こりや首こりがひどく、呼吸も深くできなくなっていました。
帰国時に飛行機に乗った際は、閉所に長時間閉じ込められることを不安に感じ、軽いパニックのような状態になったことがあります。
それまでそんな経験はなかったのに、変わってしまった自分の体調にがっかりし、気分も下がり、自信ややる気も失ってしまいました。
こうした僕の事例に限らず、競争の激しい環境の中で怒りや苛立ちを抱え続ければ、ピッタが高まり、胃の不調や血圧、肌の炎症として表れる。
座りっぱなしの生活に、甘いものや脂っこいものが重なれば、カパが積もり、体重や気分の重さにつながる。
現代の暮らしには、プラクリティとヴィクリティの差を開かせる条件が、実は豊富に揃っているのです。
精密栄養学の目盛りと、重ねてみる
僕がこの枠組みに惹かれている理由を、もうひとつ。
精密栄養学にも、よく似た構造があるからです。
遺伝子は、生まれた時から変わりません。
解毒が得意か苦手か。ビタミンの使い方に癖があるか。ストレスの処理がゆっくりかどうか。
これらはいわば、設計図の側です。
一方、血液検査の数値やHRV(心拍変動)は、いまの状態を映します。
昨日の食事や、今週の忙しさで動きます。
元々持っている設計図と、今ここを示す現在地。
呼び名は違っても、人を二層で眺めるという発想は、同じ視点を持っています。
精密栄養学で「理想値」と実際の数値を並べるのも、結局はこの距離を測る作業と言えます。
もちろん、アーユルヴェーダのドーシャと遺伝子という視点が完全に一致する、という話ではありません。
両者を結びつけようとする研究(アーユルゲノミクス)はありますが、まだ確立したものではないと考えています。
それでも、五千年前の枠組みと最新の検査が、同じ形の問いを立てている。
そこに僕は、とても惹かれているのです。
差を縮めるための、基本原則
アーユルヴェーダの実践には、とてもシンプルな原則があります。
似た性質は、その性質をさらに増やす。反対の性質が、バランスを取り戻す。
冷えて乾いている人が、冷たいサラダとスムージーを続ければ、乾きはますます強まります。
温かく、油分のあるものを選べば、戻っていきます。
この原則にそって、傾きごとの方向を整理してみます。
ヴァータが高まっている時は、規則正しさ、温かさ、油分を意識すること。決まった時間に食べて、決まった時間に寝る。温かいスープ。質のよいオイル。冷たいもの、乾いたもの、生ものは控えめに。予定を詰め込みすぎないことも、効果的な対策です。
ピッタが高まっている時は、冷ますことを考えましょう。辛いもの、酸っぱいもの、発酵の強いもの、アルコールを少し減らす。運動は涼しい時間帯に。勝ち負けの世界から、いったん離れる時間を持つなども有効です。
カパが高まっている時は、軽さと動きを取り入れましょう。朝寝坊を避ける。重いもの、甘いもの、乳製品は控えめに。少し汗ばむくらい体を動かす。同じ場所に留まりすぎないことが大切です。
どれも、特別なことではありません。
ただ、自分がいまどちらに傾いているかを知らないまま整えようとすると、逆の手を打ってしまうことがあります。
冷えている方が、体にいいからと冷たいスムージーを飲み続ける。熱がこもっている方が、温活だからと熱いものばかり摂る。
方向を間違えないこと。それだけで、同じ努力の効き方がずいぶん変わります。
まとめ:物差しは、自分の中にある
もう一度、整理します。
プラクリティは、生まれ持った設計。基本的に変わらない
ヴィクリティは、いまの状態。季節や暮らし、ストレスで日々動く
アーユルヴェーダでは、このふたつの差が開くほど、不調につながると考える
目指す先は、誰かの理想像ではなく、もともとの自分
整える方向は「反対の性質」。その前に、いまどちらに傾いているかを知ること
自分の設計を知り、いまの位置を確かめて、その差を縮めていく。
派手さはありませんが、これは一生使える物差しになってくれます。
ご自身の傾向が気になった方は、アーユルヴェーダ体質チェック(無料)もお試しください。

このメールマガジンでは、精密栄養学や遺伝子に加え、東洋医学やアーユルヴェーダ、最新のテクノロジーを用いたヘルスケアの観点から、血液データの読み解き方、食事やサプリの実験記録、そしてオーストラリアでの暮らしの中で見つけた健康と快適なライフスタイルのヒントを、お届けします。
メールマガジンに登録して、無料ガイド『はじめての精密栄養学』を受け取る
【ご登録特典】無料ガイド『はじめての精密栄養学』をプレゼント中!
自分の体調のつまずきを自分でチェックできる「つまずきマップ」、血液データで見ておきたい5つの項目、そして僕自身の一日の過ごし方まで。あなたの体を読み解くためのヒントをまとめました。
※ この記事は、アーユルヴェーダという伝統医学の考え方と、精密栄養学の視点にもとづく一般的な情報提供であり、特定の病気を診断したり、治療の効果を約束したりするものではありません。体質の分類は、自分の傾向を理解するための枠組みであって、そこから病気の有無を判断できるものではありません。効果や体の反応には個人差があります。食事の内容を大きく変える時、持病やお薬のある方、妊娠中・授乳中の方は、事前に医師などの専門家にご相談ください。不調が長く続く場合も、体質の話に収めず、医療機関を受診してくださいね。