老化は年齢ではなく、速度|糖化と、遺伝子のスイッチ

久しぶりに会った同級生が、驚くほど若く見えることがあります。
そしてその逆も、ありますよね。
生まれた年は同じで、過ごしてきた年数もまったく同じ。
それなのに、肌のハリも、白髪の具合も、ずいぶんと違って見える。
この差は、どこから来るのでしょうか?
なんとなく「体質」や「遺伝」で片づけてしまいたくなりますが、それだけでは説明がつきません。
今回は、体の中で老化がどう進むのか、そして食事とライフスタイルで手を打てるのはどこなのかを整理していきます。
老化は「量」ではなく、「速さ」で見る
まず、見方をひとつ変えてみます。
暦の年齢は、誰にとっても同じ速さで進みます。
一年経てば、全員が一歳ぶん進む。
ここは、どうにもなりません。
一方で、体の中で進んでいる年齢は、人によって速さが違います。
これを生物学的年齢と呼びます。
近年は、DNAのメチル化のパターンからこの年齢を推定する検査も出てきました。
エピジェネティック・クロックと呼ばれるものです。
なかでもDunedinPACEという指標は、暦の一年あたり、体が何年分老化しているかという「速度」を数値で出します。
1.0が標準の速さ。
それより高ければ速く、低ければゆっくり進んでいる、という読み方をします。
老化を「どれだけ溜まったか」ではなく「どれくらいの速さで進んでいるか」として捉える。
この見方に立つと、話が変わってきます。
溜まったものは戻しにくくても、速度なら、今日から変えられるからです。
ひとつめのレバー:糖化
体の中で老化を進める仕組みのうち、食事といちばん直結しているのが糖化です。
血糖が急に上がると、使いきれなかったブドウ糖が血中に余ります。
その余った糖が、体のたんぱく質や脂質と結びついて変性する。
これが糖化と呼ばれる現象で、AGEs(終末糖化産物)が生成されます。
パンケーキが焼けて色づくのと、原理としては同じ反応です。
体の中で、それがゆっくり起きていると考えてください。
問題は、このAGEsは分解されにくいことです。
つまり、作られた分だけ、少しずつ組織に残っていきます。
いちばんわかりやすく出るのが、肌です。
肌のおよそ7割は、コラーゲンでできています。
このコラーゲンが糖と結びつくと、硬く、もろくなる。
ハリと透明感が失われ、くすみとして表に出てきます。
さらにAGEsは、細胞を刺激して炎症性のサイトカイン(IL-6やTNF-αなど)を出させることが知られています。
つまり、糖化は炎症を呼び、炎症がまた老化を進める。
ここも、負のスパイラルに陥りやすいところです。
なお、体に溜まったAGEsの量から「体の年齢」の目安を出す測定もあります。
ただしこれは機器や方法によって出方が変わる目安であり、病気の有無を判断するものではありません。
AGEsは、作られるものと、入ってくるもの
AGEsには入り口が二つあります。
ひとつは、いま見たように体の中で作られるもの。
もうひとつは、食べ物から直接入ってくるものです。
AGEsは、高温で乾いた加熱をするほど増えます。
揚げる、焼き色をつける、こんがり炒める。
おいしそうに見える調理ほど、増えやすいということです。
同じ食材でも、蒸す、茹でる、煮る、低温でじっくり火を入れる、といった調理なら、生成はかなり抑えられます。
あわせて覚えておきたいのが、ALEs(終末脂質酸化産物)です。
こちらは糖ではなく、脂質が酸化してできる物質です。
長時間くり返し高温にさらされた揚げ油は、酸化した脂質とAGEsの両方を抱えることになります。
献立を丸ごと変える必要はありません。
焼き色と揚げ物の頻度を少し下げて、蒸す・煮るを一品足す。
それだけで、入ってくる量は変わります。
ふたつめのレバー:遺伝子のスイッチ
もうひとつのレバーは、遺伝子の側にあります。
ここで大事な前提を、はっきりさせておきます。
遺伝子の配列そのものは、生涯変わりません。
変わるのは、どの遺伝子が読まれていて、どれが読まれずにいるか、という状態のほうです。
この読まれ方を調整する仕組みを、エピジェネティクスと呼びます。
代表的なものが二つあります。
ひとつはDNAメチル化。DNAにメチル基という小さな「タグ」がつくと、その部分が読みづらくなり、発現が抑えられます。
もうひとつはヒストン修飾。DNAを巻き取っているヒストンというたんぱく質に、メチル基やアセチル基がつくことで、読みやすさが変わります。
そして、この巻き取りをゆるめたり締めたりする側の主役が、サーチュインです。
長寿遺伝子と呼ばれる一群で、なかでもSIRT1とSIRT3が老化に関する研究でも注目されています。
SIRT1は細胞の核の中でDNAの修復や代謝の調節を担い、SIRT3はミトコンドリアの中で活性酸素の後始末を支えます。
ただし、サーチュインには弱点があります。
働くのにNAD⁺という補酵素が必要で、これは加齢とともに減っていきます。
NAD⁺が枯れると、サーチュインは体の中に存在していても、動けません。
「歳をとると長寿遺伝子が眠る」と言われるのは、この事情によります。
サーチュインを目覚めさせる、三つの条件
では、どうすれば動いてくれるのか。
長年の研究で、条件は三つに集約されてきました。
一、軽い飢餓のシグナル
カロリー制限、断続的なファスティング、糖質を控えめにする食事。
いずれも「食べ物が少ない」という信号を体に送り、サーチュインを起こす方向に働くと報告されています。
酵母から哺乳類まで広く共通する仕組みであることが、MITのレオナルド・ガレンテ博士らの研究で示されてきました。
極端な断食は不要ですが、朝食から夕食までを10〜12時間以内に収めて、夜食をやめる。
まずはここからでも十分です。
二、適度な運動
軽い有酸素運動と、短時間の高強度運動の組み合わせが、ミトコンドリアを増やす方向とSIRT3の活性化に効果的とされています。
三、ポリフェノール
玉ねぎやリンゴのケルセチン、いちごに含まれるフィセチン、ブドウの皮のレスベラトロール。
緑茶やベリー類、カカオの濃いチョコレートも入り口になります。
なお、レスベラトロールは赤ワインの成分としてよく紹介されますが、アルコール自体は老化を進める側です。
NAD⁺の前駆体であるNMNやNRをサプリメントで補う研究も進んでいますが、こちらはまだ検証の途中にある領域です。
大切なのは、どれかひとつで効かせようとしないことです。
組み合わせて、続けたときにはじめて、読まれ方は変わっていきます。
血液データでは、どこを見るか
ここまでの話は、いくつかの検査値に姿を見せます。
空腹時血糖とHbA1c
空腹時血糖80〜90mg/dL、HbA1c 5.0〜5.3%が精密栄養学の理想ゾーンです。
ここに収まっていれば、糖化の負荷が小さく、サーチュインも働きやすい条件が整っています。
CRPと好酸球
CRPが0.2mg/dLを超えて推移する、好酸球が3.0%を超えている。
こうした時は、はっきりした症状がなくても、弱い炎症が続いている可能性があります。
慢性の炎症は、遺伝子の読まれ方を老化の方向へと押していきます。
25-OHビタミンD
30ng/mLを下回ると、免疫の調節やミトコンドリアの働きを支える力が弱まります。
精密栄養学では60〜80ng/mLを理想としています。
まとめ:ブレーキを外してから、アクセルを踏む
整理すると、
老化は、溜まった量ではなく進む速さで捉える
速さを決めるレバーは二つ。糖化と、遺伝子の読まれ方
糖化は、血糖の波と、高温調理の頻度で変わる
読まれ方は、食事のリズム、運動、ポリフェノールで変わる
目安は、空腹時血糖・HbA1c・CRP・好酸球・ビタミンDに出る
最後に、順番の話をひとつ。
慢性的な睡眠不足、長く座り続ける生活、飲みすぎ、抜けないストレス。
これらはどれも、遺伝子の読まれ方を老化の側へ書き換えていきます。
サプリメントで足すより先に、このブレーキを外すこと。
派手さはありませんが、そこが出発点です。
年を重ねること自体は、避けようがありません。
ただ、その速さのほうは、今日の食卓から変えていけます。

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※ この記事は、精密栄養学の考え方にもとづく一般的な情報提供であり、特定の病気を診断したり、治療や若返りの効果を約束したりするものではありません。本文でご紹介した理想値は精密栄養学の目安であり、医療機関で用いられる基準値とは異なります。AGEsや生物学的年齢の測定は、機器や方法によって結果が変わる目安であり、そこから病気の有無を判断できるものではありません。効果や体の反応には個人差があります。ファスティングや糖質の制限は、持病のある方、お薬を服用中の方、妊娠中・授乳中の方、成長期のお子さまには適さないことがあります。始める前に必ず医師などの専門家にご相談ください。サプリメントについても、検査をせずに自己判断で大量に摂ることは避けてください。疲れやすさや体調の変化が続く場合は、年齢のせいと考えて様子を見ずに、医療機関にご相談くださいね。