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場面と目的で選ぶ、あなたに合った呼吸法とは?

場面と目的で選ぶ、あなたに合った呼吸法とは?

「深呼吸してみてください」

そう言われて、かえって息が浅くなってしまった経験はありませんか。

僕自身、以前に飛行機の中で軽いパニックのような状態になったことがあります。その時に効いたのは、自分を説得することではなく、お腹に手を置いて息を長くゆっくりと吐くことでした。

ただ、あの時うまくいったやり方が、いつでもどこでも効くわけではありません。

呼吸法には、思っている以上にたくさんの種類があります。眠れない夜に向くもの、本番前の数十秒で使えるもの、頭のおしゃべりを止めるもの、そもそも呼吸そのものを深くしていくもの。ひとつずつ役割が違います。

今回は、僕が学んできた呼吸法を、場面と目的から整理してみます。全部で10種類。すべてを覚える必要はありません。ご自身の困りごとに近いところだけ、拾い読みしていただければ十分です。

その前に:なぜ呼吸だけが、自律神経に届くのか

心臓の鼓動も、胃腸の動きも、血圧も、自分の意思では動かせません。自律神経は、その名のとおり自律して働いているからです。

ところが呼吸だけは違います。放っておいても勝手に続いていて、しかも意識的に変えることもできる。睡眠、消化、免疫、集中力を根底で支えている自律神経に対して、自分の手が届く数少ない場所なのです。

そして、吸う時と吐く時とでは、働く神経が入れ替わります。息を吸う時には交感神経が優位になり、吐く時には副交感神経、なかでも迷走神経が深く関わると言われています。

ですから、これから出てくる呼吸法の多くは、吐く息のほうを長くするという一点で共通しています。違うのは、その長さの作り方と、意識をどこに置くかです。

まず、地盤をつくる二つ

いきなり秒数を数える前に、確かめておきたいことがあります。そもそも、息がどこに入っているか、です。

腹式呼吸(ダイアフラグム・ブリージング)

ストレスや緊張が続くと、呼吸は体の「上」へ逃げていきます。本来はお腹まわりで行うはずの呼吸を、首や肩の筋肉が肩代わりしてしまうのです。一日の終わりに首や肩が張っているとしたら、原因は疲労だけではないのかもしれません。

流れとしては、こうなります。肩や胸の呼吸が続くと交感神経が優位になる。お腹の呼吸に戻すと迷走神経が刺激されて、体は静かにリラックスへ向かう。

やり方は、お腹に手を置いて、吸う時にその手が押し出されるのを確かめる。吐く時に、静かに戻っていくのを確かめる。それだけです。

派手なテクニックではありません。けれど、すべての呼吸法は腹式呼吸が前提です。ほかの型がうまくいかない時は、たいていここが崩れています。体調が優れない時、激しい呼吸がしんどい時も、まずここから戻してください。

お腹 動かさない 手を置く ふくらむ 吸う時に手が押し出され、吐く時に静かに戻る

三部呼吸(ディルガ・プラナヤマ)

深呼吸をした時に、胸と肩だけが動いていませんか。もしそうなら、それは肺の能力のほんの一部しか使えていないサインです。

ディルガとは、サンスクリット語で「長い・深い」という意味です。ヨガの世界では最も基本的かつ重要とされていて、指導者を育てる講座でも、基本中の基本として最初に教えられるものだそうです。

面白いのは、視点の置き方です。ほかの呼吸法の多くが「いつ、どのくらいの長さで」呼吸するかを扱うのに対して、この型が扱うのは「どこに」届けるかです。

体を三つの領域に分けます。

  1. お腹:横隔膜を下げて腹部を膨らませる
  2. :肋骨が左右に広がり、肺の中部が膨らむ
  3. 胸の上部:肺の上部まで満たされ、鎖骨がわずかに持ち上がる

吸う時は、お腹から胸、そして胸の上部へと下から上へ。吐く時は、逆に胸の上部から胸、お腹へと上から下へ。息が体の中を、波のように行き来する感覚です。

いきなり三つを完璧にやろうとせず、お腹から少しずつ領域を広げていくのがコツです。デスクワークが長い方、胸や肩に力が入ってうまく吸えない方、そして「呼吸法を試したけれど効果を実感しにくい」という方にこそ向いています。

吸う 下から上へ 吐く 上から下へ 3 胸の上部 鎖骨がわずかに持ち上がる 2 肋骨が左右に広がる 1 お腹 横隔膜が下がる 息が体の中を、波のように行き来する

静めたい時の三つ

ロング・エクスヘイル(長い呼気呼吸)

吸う息の倍の時間をかけて、ゆっくり吐く。1対2の比率です。

いちばん覚えやすく、いちばん応用が利きます。赤ちゃんの頃に誰もが持っていた自然なリズムを取り戻すもの、と考えるとしっくりきます。

秒数は、苦しければ3秒吸って6秒吐くから。慣れてきたら5秒吸って10秒吐くへ。ただ数字に合わせるのではなく、ご自身が「心地よい」と感じる長さを見つけることのほうが大切です。

体が常に戦闘モードになっている方、緊張や不安、不眠、慢性的なこりを抱えている方に向いています。迷ったらこれ、という一本です。

4-7-8呼吸

鼻から4秒かけて吸い、7秒止めて、8秒かけて吐く。

長い8カウントの呼気が迷走神経を刺激し、心拍数が下がり、血圧が落ち、深いリラックスへ向かうという流れです。自然の鎮静剤とも呼ばれていて、ベッドに入っても眠れない、不安で動悸が止まらない、戦闘モードから抜け出せない。そんな夜のための一手です。

大事なのは、絶対的な秒数ではなく比率のほうだそうです。苦しさを感じるなら「4秒吸って、5秒止めて、6秒吐く」でも構いません。効果の方向性は変わりません。

回数は、最初は1セット4回まで。慣れてきたら最大8回へ。息を止めるのが苦しい方は、無理をせず、止めずに1対2だけでも十分です。

唇すぼめ呼吸(パースド・リップ・ブリージング)

口笛を吹く一歩手前。あの唇の形を作って、細く長く吐きます。

もともとは慢性閉塞性肺疾患や喘息のリハビリの現場で、長く使われてきた方法です。深呼吸でも瞑想でもありません。唇のささやかな抵抗が吐く息を自然にゆっくりにして、副交感神経のブレーキを静かに立ち上げてくれます。

呼吸が速くなって「吸えない」と焦っている時ほど、実際には吐き切れていないことのほうが多いものです。そんな場面で、この小さな抵抗が助けになります。

唇を絞ると、吐く息にわずかな抵抗がかかる 開いたまま 息はすぐ尽きる すぼめる 同じ息の量で、長く吐ける 口笛を吹く一歩手前。鼻から2秒 → 口から4秒

整えたい時:コヒーレント呼吸

コヒーレント呼吸(共鳴呼吸)

吸う息と吐く息を、同じ長さにそろえます。5秒吸って、5秒吐く。1呼吸およそ10秒、1分間に5回から6回のペースです。

人の心血管系には共鳴周波数と呼ばれるリズムがあり、それに対応するのが1分間におよそ6回だと言われています。このペースで呼吸すると、血圧の波と心拍のリズムが重なり、心拍変動(HRV)が整いやすくなるとされています。

オーケストラで、それぞれ違う楽器を持った演奏者の音がひとつに揃っていくところを想像していただくと、近いかもしれません。

ここで長く吐きすぎると、落ち着きすぎて眠くなってしまいます。集中したい場面で狙うのは、ゆるめることではなく、そろえること。

特定の症状がなくても、誰にでもすすめられる基本の型です。1日5分の習慣にするなら、これがいちばん向いています。

その場でしずめたい時:ダブルインヘイル

ダブルインヘイル(スタンフォード式ため息呼吸)

手順は三つです。

  1. 鼻から深く息を吸う
  2. 吸いきったところで、もうひと息だけ吸い足す
  3. 口からゆっくりと長く吐く

仕事が一段落した時、重い荷物を下ろした時に、体が勝手にため息をつくことがありますよね。あれは疲れや落胆のサインというより、体が自分を守るために行っている生理的な処置だと考えられています。この型は、その自然なため息を意図的に再現するものです。

鍵は「二度吸い」にあります。肺の中には肺胞という小さな袋がおよそ5億個あり、浅い呼吸が続くとその一部が潰れてしまいます。二度吸いは、その潰れた袋を一気に膨らませて、ガス交換の効率を回復させると説明されています。

場所を選ばず、誰にも気づかれず、たった一回で使える。呼吸法の中では最も即効性に優れた方法とされています。プレゼン直前に心臓がドクドクしている時、会議中にカッとなりそうな時、朝から体が重だるい時に。

ひとつ注意があります。過剰な繰り返しは控えてください。やりすぎると過呼吸気味になることがあります。目眩やしびれを感じたら、すぐに自然な呼吸へ戻してください。

1 吸う 鼻から・1.5秒 2 吸い足す もうひと息・1秒 3 吐き切る 口から・6秒 短く二回、そのあと長く一回

頭のおしゃべりが止まらない時の三つ

ブラマリ呼吸法(蜂の羽音呼吸)

口を閉じたまま、喉から「うーん」と低く滑らかな音を出しながら吐きます。蜂の羽音のような響きです。

効き方が、ほかとは違います。ほかの呼吸法が、横隔膜の動きや吐く息の長さを通じて間接的に迷走神経へ届くのに対して、この方法は喉の振動で直接揺さぶります。

世界中の宗教や瞑想の伝統に、お経、マントラ、聖歌、朗唱といった声を出す行為が必ずと言っていいほど組み込まれているのは、偶然ではないのかもしれません。

音は大きくなくて構いません。額や頬、こめかみ、胸の奥に響く振動を感じられれば十分です。低い音ほど落ち着きやすいと言われています。両手の親指で耳を軽くふさぐと振動がはっきりしますが、耳に疾患のある方はこの方法は避けてください。

呼吸数え瞑想

禅の数息観をもとにした方法です。吐く息に「1」「2」「3」と数を添えていき、「10」まで来たら「1」に戻ります。

眠れない夜に羊を数えても効かないのは、羊が呼吸と連動していないからだと言われると、なるほどと思います。数える対象が自分の呼吸なら、意識は体のほうへ戻ってきます。

コツが二つあります。ひとつは、心の中でささやくように数えること。意識のすみにそっと置く程度で十分です。もうひとつは、10を超えて数えないこと。大きな数を目指すと、達成を求める気持ちが生まれて、かえって瞑想から離れてしまいます。

時間はまず3分から。慣れたら5分、さらに10分へ。朝の始まりや、就寝前に。途中でどこまで数えたか分からなくなっても、まったく問題ありません。気づいて1から数え直せば、それでいいのです。

息焦点技法(ブレス・フォーカス・テクニック)

これまでの型とは、まったく性質が違います。秒数も、比率も、決まった姿勢もありません。

やることはひとつだけ。いま自分が呼吸しているという感覚に気づいて、注意が逸れたらまた戻る。それだけです。ハーバード大学医学部が、ストレスをやわらげる基本の方法として紹介しています。

2010年に同大学の研究チームが科学誌『サイエンス』で発表した研究によると、私たちは起きている時間のおよそ47パーセントを、目の前のこととは別のことを考えながら過ごしているそうです。そして、その心ここにあらずの時間が長い人ほど、幸福を感じにくいとも報告されています。

観察する場所は、鼻先でも、胸でも、お腹でも、ご自身が感じやすいところで構いません。

この型がありがたいのは、瞑想に挑戦して挫折した経験のある方にこそ向いていることです。うまく集中できているかを測る物差しがないので、途切れることが失敗になりません。逸れたのではなく、戻ってきた。そう捉えるだけで、続けやすさがまるで変わります。

場面別の早見表

迷った時のために、まとめておきます。

  • 夜、眠れない → 4-7-8呼吸、呼吸数え瞑想
  • 人前に立つ直前 → ダブルインヘイル
  • 集中したいのに気が散る → コヒーレント呼吸、息焦点技法
  • 不安で胸のあたりが苦しい → ロング・エクスヘイル、唇すぼめ呼吸
  • 頭のおしゃべりが止まらない → ブラマリ呼吸法
  • そもそも呼吸が浅い、肩で息をしている → 腹式呼吸、三部呼吸
  • 毎日の習慣として一つだけ持つなら → コヒーレント呼吸

ひとつだけ、注意点を添えておきます。

気力が湧かない、体が重い、何をしても心が動かない。そんなふうに沈んでいる時に、長く吐く呼吸を重ねても、あまり効きません。それどころか、さらに沈み込んでしまうことがあります。ブレーキが利きすぎているところに、もう一度ブレーキを踏むようなものだからです。

そういう日は、呼吸をゆるめる方向ではなく、少し上げるほうへ。吸う息を少し長くしてみる、声を出す、外に出て5分だけ歩く。そちらのほうが体には合っています。

なお、無気力や体の重さが2週間以上続いている場合は、呼吸法で何とかしようとせず、まず医療機関にご相談ください。

数えるのが面倒な時は

ここまでの10種類は、すべて無料アプリのBREATHEに入っています。

秒数を自分で数えなくても、画面の丸い光がふくらんだり縮んだりするのに合わせて息をするだけです。目を閉じたまま使いたい夜のために、音のガイドもあります。

BREATHEをひらく →

まとめ:まず一つだけ、選ぶなら

10種類を並べましたが、全部を使う必要はありません。

  • 土台は、腹式呼吸と三部呼吸
  • 静めるなら、ロング・エクスヘイル、4-7-8、唇すぼめ呼吸
  • 整えるなら、コヒーレント呼吸
  • その場で使うなら、ダブルインヘイル
  • 頭を静めるなら、ブラマリ、呼吸数え瞑想、息焦点技法

そのうえで、まず一つだけ選ぶとしたら、僕は吸う息の倍の時間をかけて吐く、これをおすすめします。秒数を数えるだけなので、どこでもできます。

感情を、感情のまま変えようとするのは、なかなか難しいことです。イライラしている時に、イライラを抑えようと考えても、たいていうまくいきません。

けれど、吐く時間を倍にすることなら、いまこの場でできます。道具もお金も、特別な場所もいりません。

今晩、布団の中で4秒吸って8秒吐く。それを4回だけ。

まずは、できることから始めてみてください。呼吸をコントロールできるようになると、あなたの日常が今よりもほんの少し楽になるかもしれません!

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※ この記事は、精密栄養学の考え方にもとづく一般的な情報提供であり、特定の病気を診断したり、治療の効果を約束したりするものではありません。効果や体の反応には個人差があります。呼吸法は、めまいやしびれ、息苦しさを感じたらすぐに中止し、自然な呼吸へ戻してください。ダブルインヘイルは繰り返しすぎると過呼吸気味になることがあります。息を止める呼吸法は、妊娠中の方、高血圧のある方、呼吸器や心臓に持病のある方、てんかんのある方には適さないことがあります。ブラマリ呼吸法で耳をふさぐ方法は、耳に疾患のある方は避けてください。持病がある方は、始める前に医師にご相談ください。強い不安や動悸が繰り返し起きる、気分の落ち込みや無気力が2週間以上続く、といった場合は、セルフケアで様子を見ずに医療機関にご相談くださいね。