小麦が良くないと、決めつけていた

小麦を食べると、頭に「ずん」とくる重さが残ります。ラーメンでも、クロワッサンでも同じでした。だから僕は長いあいだ、小麦をなるべく避けてきました。
ところが先日、スペルト小麦という古代小麦のパスタを食べてみると、その重さが出ませんでした。体のだるさもありません。
古代小麦とは、パンやうどんに使う普通の小麦のような大がかりな品種改良を受けず、昔ながらの形で育てられてきた小麦のことです。スペルト小麦のほかに、一粒小麦(アインコーン)や二粒小麦(エンマー)があります。「古代小麦ならグルテンの影響が少ない」と聞いて手に取ったパスタだったので、やっぱりそうだったのかと、僕はすっかり納得していました。
古代小麦は、グルテンが少ないのか
調べてみると、あてが外れました。
グルテンは、小麦のたんぱく質であるグリアジンとグルテニンが、水を加えてこねると絡み合ってできる網目で、パンをふくらませ、うどんにコシを出します。スペルト小麦は植物としては普通の小麦と同じ種で、グルテンの量も同じか、それより多いくらいでした。
正直に言うと、気まずい発見もありました。僕がメルマガのVol.15でお答えした「品種改良で現代の小麦のグルテンが増えた」という説も、確かめられてはいませんでした。ここで訂正します。
では、あの軽さは何だったのでしょう。
「小麦が合わない」の内訳
手がかりを探すうちに、「小麦が合わない」にも種類があると分かってきました。
小麦アレルギーでは、食べてすぐにじんましんや息苦しさが出ることがあります。セリアック病は、遺伝的な素因を持つ人で、グルテンをきっかけに免疫が自分の小腸を傷つけてしまう病気です。この二つに当てはまる人は、古代小麦を含めて小麦を避ける必要があり、セリアック病では大麦やライ麦も対象になります。
どちらでもないのにグルテンで不調が出る状態は、グルテン過敏と呼ばれます。グリアジンは小腸の細胞のつなぎ目をゆるめることがあり、腸のまわりには免疫細胞が多いため、その不調が疲れや集中しにくさとして現れることもあると考えられています。僕が疑っていたのも、このグルテン過敏でした。
さらに、FODMAP(フォドマップ)と呼ばれる発酵しやすい糖質で、お腹が張ることもあります。小麦ではフルクタンが代表で、玉ねぎやにんにくでも張るなら、こちらが疑われます。
古代小麦が合うと感じる人がいる理由
それなら、「古代小麦なら平気」という話は、ただの思い込みなのでしょうか。調べを進めると、そうとも言い切れませんでした。
一つは、小麦の種類の違いです。普通の小麦とスペルト小麦は、3組の遺伝情報(ゲノム)を持っています。一方、一粒小麦と二粒小麦には、そのうちDゲノムと呼ばれる1組がありません。このDゲノムに、免疫を強く刺激しやすいグリアジンの遺伝子が多く含まれているのです。
小麦には、虫から身を守るためのATIというたんぱく質もあり、腸の免疫を刺激して不調を起こすのではないかと疑われています。面白いことに、一粒小麦にはこのATIがほとんどなく、二粒小麦も普通の小麦より働きが弱いという報告があります。ところが、ここでもスペルト小麦は、普通の小麦と同じか、それより多いくらいでした。
まだ研究の段階ですが、グルテン過敏の人の中には、一粒小麦や二粒小麦なら反応が出にくい人がいるかもしれません。ただし、セリアック病の人にはどちらも安全ではありません。
もう一つは、商品の中身の違いです。古代小麦の商品には、原材料の少ない全粒粉のものが多く見られます。全粒粉には、白い粉では削られてしまうミネラルや食物繊維が残っています。古代小麦が体に合うと感じる時、効いているのは種類そのものより、精製の少なさなのかもしれません。
あの日、頭が重くならなかった理由
肝心の僕のパスタは、どうだったのか。スペルト小麦にはDゲノムがあり、ATIも多いので、種類の違いは、残念ながら理由になりません。
ただ、もう一つの理由は当てはまっていました。あのパスタは、全粒粉だったのです。
それに、パスタには、ラーメンのスープやクロワッサンのバターほどの脂がありません。さらに、実はこの少し前から、体重を増やすために医師と相談して糖質制限をゆるめ、白米を食べていました。糖質を長く控えたあとは血糖が揺れやすくなると言われますが、白米で糖への耐性が戻ってきていたのかもしれません(「夜中に目が覚めがちな人が、食事で気をつけたいこと」に書きました)。「古代小麦なら大丈夫」という安心も、効いていたと思います。
一度の食事で確かなことは言えません。ただ、小麦が良くないと決めつけていたのは、僕自身だったのかもしれません。
小麦の選び方と食べ方
そう考えると、小麦との付き合い方は「食べるか、やめるか」の二択ではなくなります。
選ぶなら、全粒粉のパスタや全粒の古代小麦のパスタのように、精製度の低いものです。「グルテンフリー」の加工品も、つなぎや油、砂糖を加えたものが多く、体にやさしいとは限りません。
量は、主食を回すことで調整できます。ご飯や雑穀、芋を中心に、全粒粉のパスタを週に1〜2回加える、といった具合です。野菜やたんぱく質と一緒に食べれば、血糖の上がり方もゆるやかになります。どれも8割できていれば十分です。
合うかどうかの確かめ方
食べたあとに唇や喉が腫れたり、じんましんや息苦しさが出たりしたことのある人は、アレルギー専門医に相談してください。また、セリアック病の血液検査はグルテンを食べている間でないと正しく出ないので、不調が長く続いている人は、小麦をやめる前に医療機関を受診してください。
そのうえで、2〜4週間ほど小麦を控えて体調を書き留め、次に量と時間帯と付け合わせを決めて小麦を戻し、翌日までの変化を見ます。普通の小麦の麺と一粒小麦の麺を、どちらか伏せて家族に出してもらえば、思い込みを外して比べられます。
あの一皿から言えるのは、僕には一律のグルテンフリーまでは要らなかったのかもしれない、ということです。長いあいだ小麦を遠ざけてきた僕にとって、これはうれしい発見でした。
古代小麦なら誰でも大丈夫、とは言えません。それでも、アレルギーやセリアック病がなければ、小麦をまるごとあきらめる前に、試せることはたくさんあります。まずは次の一皿から、確かめてみてください。
※ この記事は一般的な情報で、体に合うかどうかの判定や治療を目的としたものではありません。小麦アレルギーやセリアック病のある方は、古代小麦も含めて小麦を避けてください。気になる症状がある時は自己判断なさらず、医療機関にご相談ください。