昨日食べたものは、血液検査のどの項目に表れるのか

自分では、十分に食べているつもりでした。
実際に計算してみるまでは。
僕は長いあいだ、体重が増えないことが悩みでした。太りたいのに太れないという悩みは、まわりに同じ人がいません。話したところで贅沢だと受け取られそうで、口に出しづらい。ですから誰にも相談しないまま、自分ひとりで長く試行錯誤していました。
これはこうすればいい、これくらい食べればいい。そうやって自分の中だけでやり方を積み上げていくうちに、自分は間違っていない、という思い込みができあがっていったのだと思います。
その思い込みが崩れたのは、数字を見た時でした。体重を保つのに必要な量にすら、届いていなかったのです。
たんぱく質、脂質、糖質。三大栄養素の名前は、たいてい学校で習います。
ところが「昨日それをどれくらい食べましたか」と聞かれて、答えられる方はほとんどいらっしゃいません。まして、その三つが体の中で何をしていて、それが血液検査のどの項目に表れるのかとなると、学校でも健診でも教わる機会がないままです。
前回のLABOでは、健診の血液検査と60項目の血液検査が、それぞれ何を調べているのかを書きました。検査の項目から出発して、そこから何が分かるのかという順番です。今回は逆にしてみましょう。食べたものから出発して、それが血液検査のどの項目に表れるのかを見ていきます。
たんぱく質は、体の材料であり、物を運ぶ役でもある
たんぱく質というと、まず筋肉が思い浮かぶと思います。
ただ、たんぱく質が使われる場所は、筋肉だけではありません。皮膚や髪、爪、内臓の材料であることに加えて、体内の化学反応を進める酵素、一部のホルモン、外敵に備える抗体。これらもすべて、材料はたんぱく質です。
もうひとつの働きが、栄養素を運ぶことです。血液の中でいちばん多いたんぱく質であるアルブミンは、脂肪酸やカルシウム、薬の成分を運びます。ですからたんぱく質が不足すると、脂質を運ぶ力まで落ちるのです。
たんぱく質が足りているかどうかが数字に出るのが、総蛋白(TP)とアルブミンです。精密栄養学での理想値は、総蛋白が7.2〜7.5 g/dL、アルブミンが4〜4.5 g/dL。あわせて、その二つの比であるA/G比(1.8〜2.0)も見ます。
ここで押さえておきたいのは、この二つが昨日の一食で動く数字ではないことです。何週間も続けてきた食べ方の結果が出てきます。
そしてもうひとつ。たんぱく質は、食べた量と体に入った量がずれやすい栄養素でもあります。消化する力が足りていないところへプロテインを足しても、素通りしてしまうことがあるからです。
ですから総蛋白やアルブミンが低めに出た時は、たんぱく質が口に入っていないのか、口には入れたけれど取り込めていないのか、それとも肝臓で作れていないのか。そのどれなのかで、意味がまったく変わります。
脂質は、細胞膜とホルモンの材料になる
脂は減らすもの、と思われがちです。まず、その前提を疑ってみましょう。
体を構成する数十兆個の細胞は、一つひとつが脂質の膜に包まれています。コルチゾールや性ホルモンといったステロイドホルモンの材料もコレステロールです。脂溶性のビタミンA・D・E・Kは、脂と一緒でなければ吸収されません。
血中コレステロールのうち、食事から来るのは2割ほどで、残りの8割は肝臓が作っています。食事から摂るコレステロールが増えれば、肝臓は作る量を減らします。この仕組みがあるので、特定の食品だけを原因と決めつけることはできません。
理想値は、総コレステロールが180〜220 mg/dL、LDLが80〜120 mg/dL、HDLが70〜100 mg/dL、L/H比が0.9〜1.5。25-OHビタミンDは60〜80 ng/mL。
そして中性脂肪の理想値は、70〜90 mg/dLです。
この理想値には、上限だけでなく下限もあることに注意してください。健診の基準値が問題にするのは、コレステロールも中性脂肪も高すぎる場合だけです。ですが、低すぎれば細胞膜もホルモンも作りにくくなります。
なお中性脂肪は、脂を食べた量だけで決まる数字ではありません。理由は次の章で説明します。
糖質はすぐ使えるエネルギーで、余ると脂肪に変わる
糖質の役目は、すぐ使えるエネルギーになることです。
ここで知っておきたいのは、糖を細胞に入れる方法が一通りではないことです。筋肉と脂肪の細胞は、インスリンが働かないと糖を取り込めません。ところが脳と赤血球は、インスリンとは関係なく糖を取り込みます。とくに赤血球は、エネルギーを作るミトコンドリアを持っていないので、糖だけが頼りです。
だから、糖質を口から入れなかったとしても、体は必ず糖を用意します。肝臓がたんぱく質などを材料にして作るのです。これが糖新生と呼ばれる仕組みです。
ただ、糖を貯めておける量には限りがあります。糖はグリコーゲンという形で肝臓と筋肉に蓄えられますが、肝臓に蓄えられた分は食後3〜4時間で使われはじめ、健康な方でも10時間から18時間ほどでなくなります。残りの8割ほどは筋肉に蓄えられていて、これはその筋肉自身が使うためのものです。
そして、蓄えきれなかった分は、肝臓で中性脂肪に作り替えられます。糖質を摂るとインスリンが出て、そのインスリンが肝臓に脂肪を作らせるからです。
中性脂肪の話の続きがここです。中性脂肪が高い時、原因は脂の摂りすぎというより、糖の余りであることが少なくありません。
理想値は、血糖が80〜90 mg/dL、HbA1cが5〜5.3%、空腹時インスリンが2〜4 μU/mL。
この三つの項目は、見ている時間の長さが違います。血糖は採血した瞬間の値なので、一日の上下は分かりません。HbA1cは過去1〜2か月の平均です。ですから、空腹時血糖は理想の範囲なのにHbA1cが高めという組み合わせが出た時は、採血していない時間帯に血糖が上がっている可能性があります。
もうひとつ、1,5-AG(理想値14〜50 μg/mL)という項目があります。血糖が高くなると尿に糖が出て、その時に1,5-AGも一緒に流れ出るため、血中の値が下がるのです。数日から2週間ほどのあいだに食後の血糖が上がっていたかどうかが、この数字に出ます。
三つは、足りない分をたがいに補いあう
三大栄養素を別々に見ただけでは、まだ半分です。この三つは、それぞれ独立して動いているわけではありません。
糖が余れば中性脂肪になります。糖が足りなければ、体は脂肪を分解して脂肪酸やケトン体を作り、それでも足りなければ、たんぱく質を分解して糖を作ります。筋肉が減るというのは、この時に起きていることです。
たんぱく質が不足すればアルブミンが減り、脂質を運ぶ力が落ちます。脂質が不足すればホルモンの材料が減ります。ですからコルチゾール(理想値4〜6 μg/dL)や甲状腺のFT3(3〜4.1 pg/mL)が低めに出た時は、材料が足りているかどうかも確かめてみてください。
こうしたつながりがあるので、一つの項目だけを見て、多い少ないは判断できません。
同じ「低い」でも、原因は三つに分かれる
数字が理想値に届いていない時、原因は大きく三つに分かれます。
ひとつめは、その栄養素がそもそも口に入っていない場合です。
ふたつめは、口には入れたけれど、体に取り込めていない場合です。胃酸や消化酵素、胆汁の働きが弱いと、食べた量と体に入った量はずれます。これについては前回のLABOに詳しく書きました。
みっつめは、取り込んではいるけれど、使う量が多すぎる場合です。運動量が多い時期、炎症が続いている時、強いストレスが長引いている時、妊娠中や授乳中などが当てはまります。たとえば炎症があるとフェリチン(理想値50〜80 ng/mL)は上振れするので、鉄が足りているかどうかの判断が難しくなります。そこでCRP(0〜0.05 mg/dL)も一緒に見て、炎症が起きていないかを確認する必要があります。
ここでも順番が大事です。ひとつめを確かめないまま、ふたつめとみっつめを疑っても、原因は切り分けられません。
必要な量は、式で出せる
栄養素が足りているかどうかを判断するには、自分にとっての基準が必要です。その基準は、簡単な式で出すことができます。
① 基礎代謝の目安を出す
男性:10 × 体重(kg) + 6.25 × 身長(cm) − 5 × 年齢 + 5
女性:10 × 体重(kg) + 6.25 × 身長(cm) − 5 × 年齢 − 161
② 運動量の係数を掛ける
少なめ(デスクワーク中心で、運動の習慣はほとんどない)……× 1.3
中程度(週に2〜3回は体を動かす、通勤などでよく歩く)……× 1.5
高め(ほぼ毎日しっかり運動する、体を使う仕事)……× 1.7
出てきた数字が、いまの体重を保つのに必要なおおよその量です。それより多く食べていれば増える方向へ、少なければ減る方向へ動いています。1日200〜300kcalくらいの差が、体をゆるやかに動かしていく幅だとお考えください。
僕の場合で当てはめてみます。身長174cm、体重は59kgから60kgのあたり。基礎代謝はおよそ1,450kcalです。平日が中程度、週末が高めにあたるので、体重を保つのに必要な量は平日で約2,200kcal、週末で約2,500kcalということになります。
冒頭に書いた「届いていなかった」というのは、この下限のことです。増やしたいと思いながら、減ってもおかしくない量しか口に入れていませんでした。
かといって、糖質を増やして食後の眠気やだるさが戻ってくるのは避けたいところでした。そこで糖質を減らしたまま、たんぱく質と脂質でこの数字を満たす方へ切り替えました。やってみるとわかるのですが、糖質をほとんど摂らずに2,200kcalを満たすのは、思っているよりずっと大変です。たんぱく質とわずかな糖質の分を引くと、残りを埋めるのに必要な脂質は180gほどになります。
ただ、これは僕の体質と運動量をもとにした個人の例です。僕はもともと中性脂肪が低めで、脂質をエネルギーとして回しやすい一方、蓄えとして持っておく量が少ないという特徴があります。同じやり方が誰にでも合うわけではありませんし、持病やお薬のある方、妊娠中の方には向かない場合もあります。カロリーもたんぱく質の量も、体格と活動量で変わります。
昨日の食事を振り返ってみる
検査を受ける前にできることが、ひとつあります。
三日でいいので、食べたものを記録して、たんぱく質・脂質・糖質のうち、どれが足りていないかを確かめてみてください。
目安を出すなら、たんぱく質だけで十分です。1日に体重1kgあたり1〜1.5g。体重50kgの方なら、およそ50〜75gにあたります。脂質と糖質はグラム数を決めなくてかまいません。三つの量を並べてみるだけで、どれが不足しているかは分かります。
僕たちが作っているTABETAというアプリでは、食べたものを書き込むと、その日のカロリーとたんぱく質・脂質・糖質が自動で計算されます。アプリに登録された食品データをもとにした概算で、記録は端末の中だけに保存されます。無料です。
記録があると、検査の数字を見た時に、原因が三つのどれなのかを切り分けやすくなります。
まとめ
たんぱく質は体の材料になり、栄養素を運びます。脂質は細胞膜とホルモンの材料になります。糖質はすぐ使えるエネルギーになり、余れば脂肪に変わります。
この三つの働きは、総蛋白とアルブミン、コレステロールと中性脂肪、血糖とHbA1cとインスリンといった数字に表れます。
そして三つはたがいに補いあっているので、ひとつの数字だけでは足りているかどうかを決められません。
昨日あなたが食べたものは今日の血液に表れています。
血液検査結果を眺めて、もう少しご自身のお体への理解を深めてみてはいかがでしょうか。
※ この記事に挙げた数値はあくまで目安です。検査の値はその日の水分の状態や直前の食事によっても動きますし、精密栄養学の理想値は病気の有無を判定するためのものではありません。気になる値がある時は自己判断なさらず、かかりつけの医師にご相談ください。