第1章 今週の一言心にしまったままのことと、HRV
ここではHSS型HSP(刺激を求めつつ、繊細に感じ取る気質をあわせ持つタイプ)の傾向を持つ筆者が、「常に新たな刺激を求める傾向」と「ストレスや過剰な刺激に疲弊しがち」という相反する気質を持つ自分とどのように向き合い、快適な暮らしとさらなる創造性を実現しようとしているのか、その旅路をリポートしています。
皆さんには、心の奥にしまったままにしていることが、ありますか?
言いたいけれど、言えない。
誰にも打ち明けていない悩みや、自分だけが知っている事情。
それ自体がいいとか悪いという話をしたいのではありません。
ただ、内に秘めておくというその行為が、それだけで少しずつ負担になっているのではないか。
僕自身の経験からも、そんなふうに考えています。
僕はもともと、感情やアイデアが目まぐるしく動くタイプです。
その一方で、浮かんだことをそのまま相手に伝えるのが、あまり得意ではありません。
もう少し正確に言うと、頭に何かが浮かんだその瞬間に、これを伝えたら相手はどう思うだろう、この言い方でいいのか、もっと別の表現があるんじゃないか、という考えが先に立ちます。
その結果、まだ言葉になっていないものを自分の中に抱えている時間が、どうしても長くなります。
オーストラリアで暮らしていると、その時間はもう少し長くなりがちです。
移住して9年目とはいえ、僕はここでは外国人です。
もともと多様な背景の人を受け入れてきた国ですし、法律上の公平さは保たれていて、暮らしや仕事で露骨な線を引かれることも、まずありません。
それでも、受け入れる側と受け入れられる側という立ち位置の差は、日々のやりとりの底のほうに、静かに横たわっています。
少なくとも僕には、そう感じられる場面があります。
加えて、物価の上がり方も、まだまだ落ち着きません。
先月発表された統計(2026年5月分)では、住居にかかる費用が前の年より6.5%、電気代は21.1%も上がっていました!
ただ電気代の大きな数字は、去年まであった政府の補助が終わった反動という面が大きいようです。
そんな中で、いまの仕事がなくなったらどうしよう、この土地にうまく馴染めなかったらどうしよう、と考えれば、仕事や日常の人間関係においても、言いかけた言葉や想いを飲み込む場面も多くなりがちです。
ここで、少し意外な研究をご紹介します。
秘密を抱えることがどう心に響くのかを調べた研究があります。
そこで見えてきたのは、人は秘密を実際に隠さなければならない場面よりも、隠す必要のない場面でふと秘密のことを思い出してしまう回数のほうが、ずっと多いということでした。
そして、心の健やかさの低さと結びついていたのは、隠した回数ではなく、思い出してしまった回数のほうだったのです。
ここでいう心の健やかさとは、生活への満足感や、人との関係の手ごたえ、そして「自分らしくいられている」という感覚のことです。
秘密を隠す行為そのものよりも、それが頭の中に何度も戻ってきてしまうことのほうが、重く残る。そんな関係が見えてきた、ということです。
ただ、これは両者の結びつきを見た研究で、どちらが原因かまで確かめられたわけではありません。
ここからは、僕の実感の話です。
何かを心にしまい込んでいる時期、または何かに怯えたり、向き合うべきものから逃げている状態は、HRV(心拍変動)も低めに出ているように感じます。自分では気づいていない緊張が、ずっと続いているのかもしれません。
感情を表に出さずに抑えこむクセと、HRVの低さが重なりやすいことは、研究でも指摘されています。ただ、それが僕の場合に当てはまるかどうかは、あくまで推測の域を出ません。
血液検査で、コルチゾールというホルモンを測ってみたこともあります。ストレスホルモンと呼ばれることの多い、あのホルモンです。
僕の値は、13μg/dL。午前10時の採血でした。
一般の健診で使われる基準範囲にはおさまっています。ただ、精密栄養学が目安とする4〜6μg/dL(医療機関の基準値とは別の目安です)に照らすと、ずいぶん高いところにいました。
この話は、第2章で詳しくお話しします。
では、こういう時にどうしたらいいのか。
ひとつ試してみる価値があるのは、「頭」で解こうとするのをいったんやめて、「体」を動かすことです。
私たちの脳には、外の物事に集中していない時にこそ活発になる回路があります。デフォルトモードネットワーク(DMN)と呼ばれるもので、過去をふり返ったり、自分自身について考えたりする時に働きます。シャワーを浴びている時や運転中などぼんやりしている時にふとアイデアがつながるのも、この回路の影響と考えられています。
同じ悩みが何度も何度も頭を駆けめぐる状態は、自分の意識が内側に向いているから起こります。体を動かすことで外の世界に注意が向くと、この回路は静かになります。
外に出て、風にあたり、心拍が少し上がるくらいのペースでしばらく歩き続ける。それだけで、内側ばかりを向いていた注意の向き先が、いったん切り替わります。頭の中でぐるぐるしていたものを、少し離れたところから眺められるようになるかもしれません。
さて、あなたは今日、何歩歩いたでしょうか。
スマートウォッチやスマートフォンには、一日の歩数が残っています。心が内向きにこもりそうな日は、その数字をのぞいてみてください。あわせてHRVも見てみると、手がかりがもう少し増えるかもしれません。
ひとつだけ、お伝えしておきたいことがあります。
HRVは、その日一日の運動ですぐに動く数字ではありません。
強めに追い込んだ運動のあとは、体が回復にまわる分、しばらく数値が低めに出ることがあります。今回おすすめしている程度の散歩なら、その下がり方はごくわずかか、ほとんど出ないと思います。
一方、習慣として続けた場合に変化が見えてくるのは、研究では8週間あたりからという報告が多く、出方にも個人差があります。
ですから、今日の一回で数字が動かなかったとしても、どうか気になさらないでください。数週間分をならして眺めるくらいが、ちょうどいい距離感です。
打ち明けられないことが全部なくなる日は、これから先も来ないかもしれません。それでも、それらを抱えたまま、外を歩くことはできるはずです。歩数が少し伸びた日に、頭の中が思ったより静かになっていたら、それはひとつの発見だと思います。
自分が少し、我慢をすればいいだけのこと。
もしあなたがそう思っているなら、少し考え方を変えてみてもいいかもしれません。そして、できれば自分自身を解放できる環境に身を置けるように、取り組んでいくこと。
自分が我慢しなければいけない状況に陥っているその理由と向き合い、恐れや執着を手放すこと。
簡単な道のりではないかもしれませんが、それがきっと本質的な解決につながるはずです。
何か僕にお手伝いできることがあれば、いつでもお気軽にご相談ください!
第2章 今週のテーマ「ストレスホルモン」コルチゾールの本当の役割とは?
INNERTRAVELER.aiでは、お悩みの改善や健康増進だけにとどまらず、毎日を快適に、自分らしく創造的な日々を送るためのヒントを精密栄養学の視点からご提供しています。
「ストレスホルモン」コルチゾールの本当の役割とは?
第1章で、僕のコルチゾールが13μg/dLだったという話をしました。
「ストレスホルモン」という呼び名が広まったせいか、このホルモンは少ないほどいい、と思われがちです。でも、これがゼロになったら、私たちは朝、布団から出ることすらできません。
血糖を保ち、炎症を抑え、朝、体を立ち上げる。
それが、このホルモンの大切な役割です。
困るのは、出っぱなしになることと、リズムが崩れることのほうです。
そして厄介なことに、この数字は朝と夜でまるで違います。一度の採血でわかるのは、その瞬間の一点だけ。
今回のLABOでは、コルチゾールが本当は何をしているのか。健診の基準値と精密栄養学の理想値はどう違うのか。そして、リズムを支えるために日々できることを、精密栄養学の視点でまとめました。
LABO|精密栄養学の研究ノート「ストレスホルモン」コルチゾールの本当の役割とは?記事を読む →
第3章 Q&A読者の方からのご質問
Q1血液検査は、どこで受ければいいのですか?また、項目はたくさんある方がいいのでしょうか?
Aまず、「どこで受けるか」についてお答えします。
日本にお住まいなら、身近なのは職場や自治体の健康診断で行う血液検査です。ここからでも、読み取れることはかなりあります。もう少し項目を増やしたい時は、人間ドックや、クリニックでの自費の血液検査という選択肢があります。
海外にお住まいの場合は、まずGP(かかりつけ医)にご相談ください。紹介状を書いてもらい、検査機関(pathology)で採血する、という流れになります。
次に、「項目の数」について。
こちらは、基本的には項目が多い方がわかることも多い、とお答えしています。
なぜなら体の状態は、ひとつの指標だけで見きわめられるほど単純ではないからです。
たとえば「疲れやすい」という同じ訴えでも、鉄が足りないのか、甲状腺の働きが落ちているのか、血糖が乱高下しているのか、炎症が続いているのか。背景はさまざまです。しかも、それらは重なって起きていることのほうが多い。
ひとつの数値だけを見ていると、それらの深掘りがしづらいのです。でも、複数の項目を並べて、互いの関係を読んでいくと、「この数字がこう出ているなら、背景にあるのはこちらではないか」と、一段深いところまで考えやすくなります。
そして、もうひとつお伝えしたいのは、血液検査結果の基準値の違いです。
一般的な健康診断などで行う血液検査と、精密栄養学の観点から行う血液検査では、基準とする数値が大きく異なります。
まず、一般の健診で使う基準範囲は、健康な人の大多数が収まる幅の基準値が設定されています。
そこに入っていれば「異常なし」。
つまり、病気なのか、病気ではないのか、それを判断するための指標です。
皆さんも、健診で「問題ありません」と言われたのに、なんとなく不調が残っている、そんな経験はないでしょうか?
一方で精密栄養学では、そこに「理想値」という別の目盛りを重ねます。病気でない状態ではなく、その人がいちばん調子よく動けている時に示す値。だから、この範囲はぐっと狭くなります。
いくつか例を挙げてみます。
血糖なら、空腹時で80〜90mg/dL。HbA1cは5.0〜5.3%。中性脂肪は70〜90mg/dL。
鉄の貯金にあたるフェリチンは50〜80ng/mL。ビタミンD(25-OH)は60〜80ng/mL。
鉄やビタミンDは、検査をせずに自己判断で大量に摂ることは避けてください。
健診の紙で「異常なし」だった項目が、この目盛りではまだ届いていない。そういうことも、めずらしくありません。
ただし理想値は、目指す先を示すためのものであって、自分を責めるためのものではありません。僕自身、届いていない項目はいくつもあります。第1章に書いたコルチゾールの13μg/dLも、そのひとつです。
なお、INNERTRAVELER.aiでは60項目の血液検査を受けられるクリニックをご紹介できます。ご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。なお、この検査は公的医療保険の適用外(自由診療)となります。
項目をたくさん揃えることは、あくまで手がかりを増やすことです。いま何にお困りなのか。どんな時に、どうつらいのか。どんな暮らしをされているのか。それを精密栄養カウンセラーである僕がしっかりお伺いした上で、食事や休み方をどう組み立てていくかを、AIには代替できない「あなた自身を見る」という視点から一緒に考えていきます。
ただし、病気があるかどうかの判断や、検査結果を医学的に読み解くことはしません。それは医師の仕事です。気がかりな症状のある方は、まず医療機関を受診してください。
Q1サービスに興味があるのですが、記録やデータを揃えるのが大変そうで迷っています。
A必ずご用意いただきたいのは、血液検査のデータだけです。
Q1でも触れたとおり、職場や自治体の健康診断の結果でかまいません。まずはその一枚があれば、始められます。
その上で、もし無理なく足せるものがあれば、読み取れることが増えていきます。
食事の記録。これがいちばん効きます。僕がお返しするのは、結局のところ日々の食事と過ごし方のご提案ですから、何を召し上がっているかがわかると、話が一気に具体的になります。記録用に TABETA という無料のアプリを用意しましたので、よろしければお使いください。食べたものを残していくだけで、カロリーや栄養素も自動で計算されます。
運動。こちらは、たいていの方がデータをすでにお持ちです。スマートフォンを持ち歩いていれば、歩数はもう記録されているはずです。
睡眠。専用のデバイスやスマートウォッチがあればベストですが、枕元にスマートフォンを置いて寝るだけで測れるアプリもあるようです。そうしたものを使う方法もご検討ください。
このほか、HRV(心拍変動)、安静時心拍数、遺伝子検査、腸内環境の検査、血糖値の連続測定(CGM)などがあれば、さらに細かいところまで見ていくことができます。ただ、これらは必須ではありません。
全部そろえてから始めよう、と思わなくて大丈夫です。血液検査の結果一枚から始めて、続けられそうなものをあとから足していく。それで十分に進められます。
何より、こうしたデータの恩恵を受けられるのは、今の時代ならではですので、これを機にご自身の体への理解を深め、楽しみながら、より快適な毎日を創造していくためのヒントを一緒に探していきましょう!
Q1不妊治療をされていたと聞きました。私も妊活をしているのですが、どのようなことに気をつけるべきでしょうか?
Aはい。僕たち夫婦も、数年前にその時期を過ごしました。
結果的に子どもを授かることはできませんでしたが、その前提でお読みいただければと思います。
ひとつだけ、先にお伝えします。妊活は、年齢やこれまでの経過によって、時間の使い方が変わってきます。栄養や生活習慣より先に、専門の医療機関にご相談ください。ここでお話しできるのは、あくまでその土台を支える部分です。
まず、栄養の話から入る前に、僕自身の経験からいちばんお伝えしたいことがあります。
夫婦で、心から向き合って話をすること。
まずはこれがどこまでできているかが大切と思います。
なぜ子どもが欲しいのか。お互いに、どんな想いを本当は抱いているのか。そして、どこまでなら頑張れるのか。ここには、時間的なことと、経済的なことなども含まれます。
あわせて、授かることが叶わなかった時のことも、一度は話しておく。
つらい話題ですが、先に置いておけたことは、僕たちにとって助けになりました。
そもそも、ふたりは別の人間です。
分かり合っているつもりでも、お互いが実際に感じていることは、それなりにすれ違っているはずです。その前提に立って、相手を思いやる気持ちを、その都度確かめ合う。その姿勢を前もって、しっかりと確認しておく、それが大事だと思います。
不妊治療の中では、とくに女性がホルモンのバランスを崩したり、体の負担を強いられたりする場面が少なくありません。その時に、男性として何ができるのか。考え続けることは必要だと思います。
その上で、栄養の話を。
はっきりしているのは、葉酸です。
日本では、妊娠を計画している方、妊娠の可能性がある方、妊娠初期の方は、ふだんの食事からとる葉酸に加えて、サプリメントや葉酸を強化した食品から1日400μgをとることが望まれています。時期は、およそ妊娠の1か月以上前から妊娠3か月まで。神経管がつくられるのは妊娠のごく初期なので、気づいてから始めたのでは間に合わないことがあるからです。
三つ、あわせて覚えておいていただきたいことがあります。
ひとつ。この400μgは、食事とは別に、サプリメントや強化食品からとる分の量です。ふだんの食事の葉酸を400μgまで増やす、という話ではありません。
ふたつ。上限があります。サプリメントや強化された食品からとる場合は、1日1000μgを超えないように、とされています。多くとるほど良いというものではありません。
みっつ。神経管閉鎖障害は葉酸不足だけが原因で起こるものではなく、葉酸をとれば必ず防げる、というものでもありません。ここは公的な資料にもはっきり書かれています。
妊娠を考えていらっしゃる方は、この話を持って一度かかりつけの産婦人科でご相談ください。
ただ、葉酸には種類があり、体での使われ方に個人差があります。このあたりは以前まとめましたので、よろしければこちらを。
LABO|精密栄養学の研究ノート葉酸を飲んでも、なぜ変わらないのか|MTHFRと活性型葉酸の話記事を読む →
それから、第2章のコルチゾールの話が、ここでもつながります。
ストレスが続くと、体は生命維持を優先して、コレステロールという材料をコルチゾールの方へ回し、その分、性ホルモンにまわる材料が細くなる、という見方があります(まだ十分に確かめられた説ではありません)。妊活で「まず余裕をつくってください」とお伝えしているのは、こうした見方もあってのことです。
ただ、これは「ストレスさえ減らせば授かる」という話ではありません。うまくいかない時期が続くと、こういう話は自分を責める材料になりがちです。どうか、そう読まないでください。
もうひとつ、男性側について。精子ができあがるまでにはおよそ3か月かかりますから、パートナーの方も同じ時期から一緒に見直しておくと、時間の使い方に無駄がありません。
最後に、ご参考までに僕ら自身が当時取り組んでいたことをお伝えします。効果を保証するものでも、どなたにでもお勧めできるものでもありません。あくまでひとつの例として受け取ってください。
食事を見直すこと。走って体力をつけ、下半身に筋肉をつけること。夜は早めに寝て、朝の時間をゆっくりとること。体の深部を温めること。そして、できるだけ穏やかに過ごすこと。自分を責める癖に気づいたら、そこでやめるようにしていました。
並べてみると、特別なことはひとつもありません。ただ、どれも続けるのは簡単ではないな、というのが正直なところです。
そして、ここに並べたことをやっていたから何かが変わった、と申し上げるつもりもありません。実際、僕たちは授かりませんでした。
ですから、できていないことがあったとしても、それがうまくいかない理由だとは、どうか思わないでください。
うまくいかないことが続くと、自分の体や、自分たちの選択や行動を責める気持ちが出てきがちです。そんな時でも、過去を必要以上に振り返ることなく、自分たちがしてきたことに自信を持ち、納得できるよう、あらかじめ心構えをしておくことが大事だと思います。
第1章で、しまったままのことがあるかと書きました。
僕にとってのそのひとつが、まさにこの話です。
お子さんを授かれることを、心から願っています。
そして何より、おふたりが共に心から納得できる進め方を見つけていかれることを、願っています。
