カフェインやアルコールへの耐性を決める遺伝子の話

夕方にコーヒーを飲むと夜まで眠れなくなる人がいる一方で、寝る前に飲んでもぐっすり眠れる人がいます。お酒も同じで、乾杯の一杯で顔が真っ赤になる人もいれば、何杯飲んでも顔色ひとつ変わらない人もいます。家族や友人と比べて、どうしてこんなに違うのだろうと思ったことはありませんか。
この違いには、生まれつきの遺伝子の型が大きく関わっています。人の遺伝情報は、およそ32億文字あります。そのあちこちに、人によって一文字だけ違う場所があり、SNP(スニップ)と呼ばれます。この一文字の違いで、酵素の働きの強さや、作られる量が変わることがあります。
カフェインとアルコールは、分解に関わる酵素が少ないので、そのうち一つの型が違うだけで、効き方がはっきり変わります。
コーヒーが夜まで残る人と、すぐ抜ける人
飲んだカフェインは、主に肝臓で分解されます。その最初の段階を担うのが、CYP1A2という酵素です。
CYP1A2には、たくさん作られる型と、あまり作られない型があります。たくさん作られる型の人は、午後に飲んだコーヒーが夜にはだいぶ抜けています。あまり作られない型の人は、同じ一杯が夜になっても体に残り、寝つきが悪くなりがちです。
そう聞くと、コーヒーに強いか弱いかは、この酵素だけで決まるように思えます。
分解が速くても、一杯でドキドキする人がいる理由
ところが、CYP1A2がよく働いている人のなかにも、コーヒー一杯で胸がドキドキしたり、夜に寝つけなくなったりする人がいます。コーヒーの効き方には、分解の速さのほかに、あと二つの遺伝子が関わっているからです。
一つめは、カフェインを受け取る受容体です。カフェインで目が覚めるのは、眠気のもとになるアデノシンという物質の受容体に、カフェインが代わりにくっついてしまうからです。この受容体を作る遺伝子がADORA2Aで、ある型の人はカフェインを人一倍敏感に感じます。分解が速い人でも、受容体が敏感なら、少しの量で強く効いてしまいます。
二つめは、COMTという酵素です。カフェインをとると、ノルアドレナリンのような、体を興奮させる物質が増えます。COMTは、こうした物質やドーパミンを分解して片づける酵素です。COMTがゆっくり働く型だと、興奮がなかなか収まらず、眠れない、イライラするといった状態が長引きやすくなります。
コーヒーの効き方は、CYP1A2、ADORA2A、COMTという三つの遺伝子の型の組み合わせで、人によって大きく変わります。
僕自身、コーヒーは大好きなのですが、夕方に飲んだ一杯は夜まで残ります。全ゲノム検査で調べてみると、僕のCOMTの働きは中間で、ADORA2Aは、カフェインで不安やそわそわが出やすいと報告される型でした。
お酒で顔が赤くなる仕組み
お酒の分解も主に肝臓で行われ、こちらは二段階で進みます。まずADH1Bという酵素が、アルコールをアセトアルデヒドという物質に変えます。次に、ALDH2という酵素がアセトアルデヒドを分解して、酢酸にします。酢酸になれば、体にとってほぼ害はありません。
顔が赤くなる、頭が痛くなる、気持ちが悪くなる、動悸がする。お酒を飲んだ時のこうした反応の多くは、途中でできるアセトアルデヒドによるものです。
同じ飲み会でも、すぐ赤くなる人と平気な人に分かれるのは、主に二段階目のALDH2の型が違うからです。ALDH2がしっかり働く型の人は、できたアセトアルデヒドをすぐに片づけられます。働きが弱い型の人は片づけが追いつかず、少しの量で顔が赤くなります。ほとんど働かない型の人は、ほんの一口でも具合が悪くなることがあります。
日本人は分解が速いのに、なぜお酒に弱い人が多いのか
日本人の多くは、一段階目のADH1Bがよく働く型を持っていて、ヨーロッパやアフリカの人と比べると、アルコールを速くアセトアルデヒドに変えられます。
そして日本を含む東アジアには、二段階目のALDH2の働きが弱い型の人も多くいます(ヨーロッパやアフリカでは、ほとんど見られない型です)。この二つが重なると、アセトアルデヒドはどんどん作られるのに、片づけが追いつきません。
反対に、ADH1Bがゆっくり働き、ALDH2がしっかり働く組み合わせなら、アセトアルデヒドは少しずつしか作られず、できたそばから片づきます。ヨーロッパやアフリカの人に、たくさん飲んでも顔色が変わりにくい人が多いのは、このためです。
日本人はアルコールの分解が速いと聞くと、お酒に強そうに思えます。実際には、ALDH2が弱い人にとっては、一段階目が速いことがかえって裏目に出ます。
健康診断のγ-GTPで分かること
遺伝子の型は、生まれた時から変わりません。一方で、肝臓がいまどれくらい解毒に追われているかは、血液検査の数字に表れます。
健康診断でおなじみのγ-GTPは、お酒の飲みすぎの目安としてよく知られています。ただ、γ-GTPは、解毒に使われるグルタチオンという物質の再利用にも関わる酵素です。お酒を飲まない人でも、体の解毒の負担が大きいと高めに出ることがあります。
精密栄養学では、γ-GTPの理想値を20〜30U/Lとしています。健康診断の基準値に収まっていても、これより高めに出ていれば、肝臓が忙しく働いているサインとして読みます。
自分の型が分かったら
お酒の席では「飲めば強くなる」とよく言われますが、ALDH2の型が変わるわけではありません。ALDH2の働きが弱い人が飲み続けると、食道がんのリスクが大きく上がるとされています。
型が変わらないからこそ、知っておくと付き合い方を決めやすくなります。コーヒーが夜まで残る型なら、昼までの一杯にする。顔が赤くなるなら、お酒の席で無理に杯を重ねない。家族のなかで効き方が違っても、それぞれが自分の型に合わせて選べば十分です。
自分の型は、遺伝子検査で調べられます。僕もちょうど全ゲノム検査の結果が出たところなので、何が分かったのかは、またあらためてご紹介します。
※ ここに挙げた数値はあくまで目安で、病気の有無を判定するためのものではありません。検査の値は、その日の体調でも動きます。気になる値がある時は自己判断なさらず、かかりつけの医師にご相談ください。