第1章 近況ある朝、リビングに知らない人が立っていた
今週は、ちょっとした事件がありました。
朝、いつものように仕事を始める時間になり、ミーティングまであと15分という時、仕事部屋の隣のリビングから、誰もいないはずなのに物音がします。
仕事に出かけた妻が、忘れ物でも取りに帰ってきたのか。気になって見に行くと、知らない男性が部屋の中に立っていました。
一瞬驚きましたが、仕事も始まるし、ここは自分の家だし、とにかく出て行ってもらおうと説得をします。ところが、なかなか従ってくれません。
正直、彼が話す言葉も少し聞き取れませんでした。とはいえ気分を害さないようにと、少しジョークも交えて笑顔で対応していたところ、なんで笑ってるんだ、というようなことを彼が言い出し、少しずつ苛立ってきたようにも見えました。
それでも、危害はなさそうだなと判断しました。とはいえ、いつまでも居座ってもらうわけにもいきません。
肩に手を回して、優しく外へ誘導するように彼を導き、外に出たところを見計らって窓を閉めました。
その後、アパートの管理人と相談し、警察に連絡をした上で、彼は連れて行かれました。
自分が取った行動そのものに、疑問は感じていません。ただ、ふと思うことがありました。
この国の土地は、歴史をさかのぼれば、もともと先住民の方々が暮らしてきた場所です。そこへ、僕のような移民が後から来て暮らしています。
ここは僕の家だから出て行ってくれ。そう言いながら、自分の言葉にどこか違和感がありました。その背景には、こうした経緯が頭をよぎっていたのかもしれません。
果たして僕の行動は正しかったのか。
この土地は誰のものなのか。所有とは、権利とは、一体何なのか。
自分の中でもまだ答えは出ていませんが、そんなことを考えさせられた出来事でした。
第2章 今週の精密栄養学昨日食べたものは、血液検査のどの項目に表れるのか
自分では、十分に食べているつもりでした。
実際に計算してみるまでは。
僕は長いあいだ、体重が増えないことが悩みでした。
痩せたいという方は、まわりにたくさんいます。でも、太りたいのに太れないという人は、少なくとも僕のまわりにはいませんでした。話したところで贅沢な悩みだと受け取られそうで、口に出しづらい。そもそも、そんなことを気にしているというふうに思われたくもありませんでした。
ですから誰にも相談しないまま、長いこと自分ひとりで試行錯誤していました。これはこうすればいい、これくらい食べればいい。そうやって自分の中だけでやり方を積み上げていくうちに、自分は間違っていない、という思い込みができあがっていったのだと思います。
その思い込みは、数年前に栄養指導を受けた時にあっけなく崩れました。自分が何をどれだけ食べているのか、僕は知らなかっただけだったのです。
三大栄養素の名前自体は、学校でも習います。ところが「昨日それをどれくらい食べましたか」と聞かれて、答えられる方は、ほとんどいらっしゃいません。まして、それが血液検査のどの数字に表れるのかとなると、教わる機会がないままです。
たとえば中性脂肪という項目は、名前のせいもあって、脂を摂りすぎると上がる数値だと受け取られがちです。ところが実際には、糖質の余りが肝臓で作り替えられたものも、少なくありません。見直すべきだったのは、脂ではなく糖のほうだった。そういうことが起こります。
今回のLABOでは、たんぱく質・脂質・糖質が体の中でどのような働きをして、それが血液検査のどの項目に表れるのかを、精密栄養学における理想値と合わせて整理しています。僕が実際に足りていなかったものや、その計算方法も記事に記載しています。
昨日食べたものは、今日のあなたの血液に表れています。
LABO|精密栄養学の研究ノート昨日食べたものは、血液検査のどの項目に表れるのか記事を読む →
第3章 Q&A読者の方からのご質問
Q1あまり食べていないのに、太ってしまうのはなぜでしょうか。
Aご質問ありがとうございます。同じお悩みをお持ちの方は、少なくないと思います。
精密栄養学を学んでいて、印象的だった言葉があります。
それは、「減量においては、血糖のコントロールが課題の大きな部分を占める」というものです。
はじめて聞いた時は少し大げさだと思いましたが、様々なクライアントの食事記録を拝見する機会が増えるにつれて、なるほどと思うようになりました。思うように体重が減らない時、食べた量だけでは説明がつかないことが多いのです。そこで見ておきたいのが、血糖の波です。
血糖が上がると、それを下げるためにインスリンが出ます。インスリンは、余った糖を脂肪として蓄えるほうへ体を動かすホルモンです。ですから波が大きく、回数が多いほど、体は蓄える側に傾いている時間が長くなります。
この波は、食事量だけではなく、その中身とタイミングで決まります。
食事の量が少なくても、その中身が糖質に寄っていれば、血糖は上がって、そして下がります。しかも下がった時につい口にしているものは、「食事」として記憶に残らないことも少なくないようです。ここには、ぶどう糖や果糖などを含む飲み物やお菓子なども含まれます。
では、そもそもなぜ糖に手が伸びてしまうのでしょうか?
背景はいくつかありますが、食事記録を拝見していていちばん多いのは、「たんぱく質の不足」です。
たんぱく質が少ない食事は、その分だけ糖質中心になりがちです。糖質中心の食事は血糖が振れやすく、上がったあとには必ず下がります。血糖値が下がった時に出てくるのが、空腹感、だるさ、集中力の欠如、気持ちの揺れなどです。
加えて、たんぱく質が不足すると、筋肉が減ります。筋肉は、食べた糖を貯蔵しておく場所でもあります。置き場所が少なければ、血糖は上がりやすく、そして下がりやすくなります。
そして厄介なのは、ここで食事の量を減らすと、かえってこのサイクルが進んでしまうことです。体は筋肉を分解してエネルギーを作るので、体重は確かに減りますが、減っているのは筋肉と水分であることが多いようです。見せかけの減少とも言われる状態です。
目安としては、少なくとも毎食15g以上のたんぱく質を意識すること。これくらいを確保できていると、筋肉量と代謝を保ちやすくなります。
そしてもうひとつ。体組成計をお使いなら、その日の体重という数値を単独では見ないことをおすすめします。増えたり減ったりしているのが水なのか、筋肉なのか、脂肪なのか。一日の数字ではなく、数週間の線として眺めてみると、より深くご自身のことを理解できるかもしれません。
Q1グルテンフリーって、必要なのでしょうか。
Aこれは、ご質問をいただくことがとても多いテーマです。
そもそもグルテンとは、小麦に含まれるグリアジンとグルテニンという二種類のたんぱく質が、水を加えてこねられることで絡み合ってできる、網のような構造のことです。この網が生地の中の気泡を抱え込むので、パンはふくらみ、うどんにはコシが出ます。
大麦やライ麦にも、グリアジンとよく似た性質のたんぱく質が含まれています。ですからグルテンを控えるという場合、押し麦の入ったごはんやスープ、ライ麦パン、麦芽から作るビールなども対象に入ります。
では、なぜグルテンが問題になることがあるのでしょうか?
小腸の内側は、細胞と細胞のつなぎ目が普段はしっかりと閉じていて、必要なものだけを通しています。グルテンは、このつなぎ目を緩める方向に働くことがあります。緩んだところから、本来なら通らないはずのものが入ってしまう。リーキーガットと呼ばれる状態です。
そして免疫細胞は、その多くが腸のまわりに集まっています。腸の壁が緩めば、免疫の側もそれに反応することになります。お腹の不調だけでなく、疲労感や肌荒れとして表に出ることがあるのは、このためだと考えられています。
ただし、反応の強さは人によってかなり違います。グルテンに自己免疫反応が起きるセリアック病という病気があり、それとは別に、セリアック病ではないけれどグルテンに反応する体質もあります。
そのうえでお伝えしたいのは、小麦そのものが変わってきているという点です。
現代の小麦は、収穫量を上げるために品種改良を繰り返してきました。その過程でグルテンの含有量は増え、ミネラルの含有量は減りました。ですから「小麦が体に悪い」というより、「いまの小麦が、昔の小麦とは違うものになった」と考えるほうが正しいように思います。
では、どうすればいいのでしょうか。いきなり完全にゼロを目指さない、という姿勢が大事だと思います。完璧にできないと気が済まなくなって、かえって続かない方をたくさん見てきました。
まずは主食から見直してみましょう。毎日のパンや麺類を減らすだけでも、摂取する小麦の量はかなり減ります。なお、グルテンフリー専用の加工食品はおすすめしていません。高いわりに加工度が高く、栄養的にはむしろ劣ることが少なくないからです。ご飯、芋、肉、魚、卵、豆腐、野菜。普通の和食に寄せるだけでも、自然にグルテンは減っていきます。
そして、小麦を抜くことと同じくらい大切なのが、腸そのものを整えることです。亜鉛とビタミンD、オメガ3系の脂質、それに発酵食品と食物繊維。長い目で見ると、こちらのほうが効いてきます。
最後にひとつだけ。長期的な不調が続いている方は、小麦を抜く前に一度、医療機関にご相談ください。セリアック病の検査は、グルテンを食べている状態でないと正しい結果が出ないからです。先に抜いてしまうと、あとで調べたくなった時に、もう一度何週間もかけて食べ直すことになります。
Q1ぐっすり眠れないのですが、どうしたらいいでしょうか。
Aひとくちに「眠れない」といっても、中身はいくつかに分かれます。どれに近いかで、手を打つ場所が変わります。
寝つきが悪い時は、体内時計が後ろにずれているのかもしれません。眠くなる時刻そのものが、遅くなっている状態です。
夜ふかしをすると、眠くなる時刻は簡単に遅くなります。ところが、それを早めるのは一日に1時間が限度です。いつも0時に寝ている方が週末に2時まで起きていたとすると、月曜にまた0時に寝ようとしても、眠くなるのは1時。0時に戻るのは火曜の夜です。
もうひとつ、深部体温が下がりきっていないと眠気は訪れません。眠気は、体温が低い時ではなく、下がっている最中にやってきます。
夜中に目が覚める時は、血糖が関わっていることがあります。寝ている間に血糖が下がると、体はそれを戻そうとしてコルチゾールやアドレナリンを出します。ホルモンの動きは、目が覚めるより数分早く始まります。体が先に動いて、あとから目が覚めるということです。夕食が糖質に偏っている方は、ここが疑われます。
朝、早く目が覚めてしまう方は、まず就寝時刻を確認してみましょう。眠くなる前に布団へ入っていると、朝までもたずに目が覚めます。
もうひとつは、体内時計が前へずれている場合です。年齢とともにその傾向は強まりますし、朝ばかり光を浴びて夕方以降が暗い生活も、同じ方向へ作用します。この場合だけは、朝の光を増やすより、夕方に明るさを増やす方が適切です。ただし、気分の落ち込みも続いているようなら、生活習慣の話だけではないかもしれませんので、医療機関への相談をご検討ください。
睡眠時間は確保できているのに疲れが取れない、というケースもあります。ここで見るのは眠った長さではなく、眠っている間に体が回復モードへ入れているかどうかです。
眠っている間、ブレーキ役の副交感神経が優位になって、はじめて体の修復が進みます。ところが、日中の緊張が夜まで続いていると、横になっていても交感神経が優位なままで、時間だけが過ぎていきます。HRVが低い(=心拍のゆらぎが小さい)のは、この状態です。
ここで効果的なのが、呼吸です。ゆっくり長く吐く呼吸は、副交感神経を自分の意思で活性化できる方法です。1分間に5〜6回ほどのペースで、寝る前に数分。あわせて、就寝前3時間以内のアルコールは避けてください。寝つきは良くなりますが、その後の回復を妨げます。
眠っている間は、長い絶食時間になります。もともと蓄えの少ない方は、夜のうちにエネルギーが底をつき、体が筋肉を分解してしのぐことがあります。朝、起きた時点でもう疲れている体感がある方は、ここが疑われます。
いびきや日中の強い眠気をともなう場合は、睡眠時無呼吸の可能性もありますので、こちらは一度、医療機関にご相談ください。
そのうえで、どのタイプにも共通してやっておきたいことが四つあります。
ひとつめは、起きる時刻を揃えること。寝る時刻はその日の都合で動きますが、起きる時刻を固定しておけば、時計の起点は動きません。
ふたつめは、朝、一度外に出ること。室内は100から300ルクスほどですが、曇りの日でも屋外は1,000ルクスを超えます。桁が違います。
みっつめは、運動を朝か午後の早い時間にすること。光が効きにくい午後にも、運動なら時計を前へ進められることが分かってきました。反対に、夜7時から10時の運動は、時計を後ろへずらします。
よっつめは、入浴を就寝の1〜3時間前にすること。湯につかると手足から熱が逃げて、そのあと深部体温が下がっていきます。
最後に、食事のことをひとつ。夕食を糖質だけで終えないことです。たんぱく質と脂質を添えるだけでも、夜中の血糖の落ち込みが緩やかになります。Q1でお話しした血糖の波は、夜にも続いています。
まとめると、寝るという行為は、夜に始まるのではなく、朝に目が覚めた時から始まっているのです。
