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肝臓の数値が低いのは、いいことなのか

肝臓の数値が低いのは、いいことなのか

健康診断の結果票が届くと、僕がいちばん先に見るのは肝臓の欄です。AST、ALT、γ-GTP。数字の横に「H」の印がついていなければ、ひとまず安心して次のページをめくります。

前回の血液検査で、僕のALTは18でした。基準範囲の中でも低めの数字で、もちろん印はついていません。肝臓の数値は低いほど肝臓が元気なのだと、僕は長いあいだ思い込んでいました。

ところが精密栄養学では、低すぎる数字にも目を向けます。体の中で栄養が足りていないことを表している場合があるのです。AST・ALT、γ-GTP、ALPの順に見ていきます。

健診の肝臓の欄は、何を確かめているのか

健診が確かめているのは、肝臓の細胞が傷んでいないか、肝臓に負担がかかりすぎていないかです。AST(GOT)とALT(GPT)は、肝臓の細胞の中で働く酵素です。細胞が傷むと、中にあった酵素が血液に漏れ出すので、数字が上がります。γ-GTPも、お酒や薬、肝臓にたまった脂肪によって上がる酵素です。

ですから健診では、高い数字に印がつきます。反対に、低い数字が問題にされることは、ほとんどありません。健診の目的は病気を見つけることなので、高い数字を確かめれば、その役割は十分に果たせます。

では、低い数字には、何の意味もないのでしょうか。

ASTとALTは、ビタミンB6がないと働けない

低い数字の意味を知るために、まず二つの酵素の働きを見てみます。ASTとALTは、アミノ酸を別の物質に組み替えて、エネルギー作りや、食事と食事の間の血糖を支える酵素です。

この二つの酵素は、活性型のビタミンB6と組んではじめて働けます。そして、血液検査のASTとALTは、酵素の量ではなく、酵素がどれだけ働いたかを測った数字です。そのため、ビタミンB6が足りないと、肝臓に何の問題もなくても、酵素が十分に働けず、数字は低めに出ます。

また、酵素そのものは、たんぱく質からできています。たんぱく質が足りなければ、酵素を十分に作れないので、やはり数字は低くなります。

精密栄養学では、ASTとALTがどちらも20から22の間で、二つの値がそろっている状態を目安にします。二つがそろって20を下回る時は、ビタミンB6やたんぱく質が足りているかを考えます。

ビタミンB6を活性型に変える時には、マグネシウムと亜鉛も使われます。この二つの栄養素は、後半でもう一度出てきます。

ビタミンB6は、眠りや気分にも使われている

ビタミンB6が使われているのは、肝臓の酵素だけではありません。

脳の興奮を静めるGABA(ギャバ)という物質は、グルタミン酸から作られます。この変換を担う酵素も、ビタミンB6がなければ働けません。気分に関わるセロトニンやドーパミンを作る工程でも、ビタミンB6が使われています。

このことを知った時、僕のALTの18は、ただの低めの数字には見えなくなりました。肝臓の欄の数字が、脳で働く物質を作る話にまでつながっていたのです。

布団に入っても考えごとが止まらない。疲れているのに寝つけない。そんな夜が続いている方は、結果票のASTとALTを見てみてください。二つがそろって低ければ、ビタミンB6が足りているかを考える手がかりになります。

γ-GTPが低い時は、グルタチオンの材料を考える

肝臓の欄には、低さに意味のある数字がもう一つあります。お酒を飲む人ほど気にするγ-GTPです。

γ-GTPは、グルタチオンという物質を分解して、その材料を細胞がもう一度使えるようにする酵素です。グルタチオンは、グルタミン酸、システイン、グリシンという三つのアミノ酸からできています。このグルタチオンは、肝臓で薬やアルコールを体の外へ出しやすい形に変える時や、活性酸素を消す時に使われます。

お酒を飲む量が増えると、肝臓ではグルタチオンが多く使われます。すると、使われたグルタチオンを再利用するために、γ-GTPも増え、数字が上がります。

精密栄養学では、γ-GTPは20から30を目安にします。では、低すぎる時には何を考えるのでしょうか。注目するのは、グルタチオンを作り直すための材料です。材料になるのはアミノ酸、つまりたんぱく質です。三つのアミノ酸のうち、システインを体の中で作る工程には、ビタミンB6も使われます。ですから、γ-GTPが低すぎる時も、たんぱく質とビタミンB6が足りているかを考えます。

ALPが低い時は、亜鉛とマグネシウムを考える

三つめのALPは、人間ドックや医療機関の血液検査で測ることの多い項目です。

ALPは、胆汁の通り道や骨を作る細胞、小腸などにある酵素です。働くためには、亜鉛とマグネシウムを酵素の中に組み込む必要があります。そのため精密栄養学では、ALPの低さを、亜鉛が足りていないサインのひとつとして読みます。精密栄養学の目安は63前後です。

ただし、以前の結果と比べる時には注意が要ります。日本では2020年から、ALPの測り方が変わりました。それより前の測り方では、同じ状態でも、いまのおよそ3倍の値が出ていました。

三つの数字が、そろって低い時

ここまでの話を、まとめてみます。

ASTとALTが働くには、ビタミンB6とたんぱく質が要ります。γ-GTPが再利用を助けるグルタチオンは、たんぱく質から作られ、その工程にもビタミンB6が使われます。ALPが働くには、亜鉛とマグネシウムが要ります。そして、ビタミンB6を活性型に変えるのも、マグネシウムと亜鉛でした。

肝臓の欄の数字なのに、低い理由をたどっていくと、行き着くのは肝臓の病気ではありません。たんぱく質、ビタミンB6、亜鉛、マグネシウムという、同じ四つの栄養素です。

ですから、三つの項目がそろって低い時は、これらの栄養素が足りているかを考えます。見分けたいのは、食べる量が足りていないのか、食べているのに取り込めていないのか、という違いです。肉や魚、卵をしっかり食べているのに低いなら、胃酸の働きなど、消化と吸収の段階がうまくいっていないことがあります。その場合は、尿素窒素(BUN)やアルブミンといった、たんぱく質に関わるほかの数字も並べて見ます。血液検査から消化の力を読む方法は、LABO 17で詳しくご紹介しました。

それでも、一つの数字では決めない

正直に書くと、この読み方を覚えてから、僕は低い数字を見るたびに「足りていない」と決めつけるようになっていました。

その思い込みを止めてくれたのは、全ゲノム検査の結果でした。僕は、ALPを作る遺伝子に、ALPが低く出やすくなる違いを持っていたのです。ですから、もし僕のALPが低く出ても、すぐに亜鉛の不足と読むことはできません。

低く出る理由は、遺伝子のほかにもあります。ALPは、年齢や甲状腺の働きによっても低めに出ます。ASTは、筋肉の量や運動によっても上下します。

低い数字は、足りないものを探す手がかりにはなりますが、答えそのものではありません。ALPが低ければ血清亜鉛を、ASTとALTが低ければ、たんぱく質に関わるほかの数字を、必ず並べて見ます。一つの数字だけで決めないことが、低い数字を読む時にいちばん大切です。

手元の結果票で、確かめられること

お手元に健診の結果があれば、肝臓の欄のASTとALTを見てみてください。二つがそろって20を下回っていたら、まずは毎日の食事で、たんぱく質が足りているかを振り返ります。肉や魚、卵、大豆製品を、毎食とれているでしょうか。

そのうえで、ビタミンB6、マグネシウム、亜鉛を意識します。ビタミンB6は、まぐろやかつお、鶏肉、バナナ、玄米に多く含まれます。マグネシウムは海藻や大豆製品、ナッツから、亜鉛は牡蠣や赤身の肉からとれます。

サプリメントには注意が必要です。ビタミンB6は、量が多いまま長く続けると、手足のしびれにつながることがあります。亜鉛も、とりすぎると銅が足りなくなります。サプリメントを使うかどうかは、検査で確かめたうえで、医療機関で相談してから決めてください。

結果票の「H」の印は、高すぎる数字を知らせてくれます。けれど、低すぎる数字には、印がつきません。次に結果票を開く時は、印のない数字にも、少しだけ目を留めてみてください。

それぞれの項目の詳しい読み方は、血液検査の項目ガイドにまとめています(AST・ALT、γ-GTP、ALP、亜鉛)。


※ この記事は一般的な情報で、検査値の判定や治療を目的としたものではありません。サプリメントを使うかどうかは、検査で確かめたうえで医療機関にご相談ください。気になる症状がある時は自己判断なさらず、医療機関にご相談ください。